2月21日(月)

この日で今月の文楽は千秋楽。実は、第二部と第三部はそれぞれ三回観ました。演目と配役が発表になった時点で、これはリピート必至と思って発売日に2回分買い、一回目を見たあとでそれぞれもう一回追加。第一部も文雀さん休演でなかったらリピートしたかも。



義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
    渡海屋・大物浦の段 文字久・喜一朗、英・清介、咲・燕三
玉女の知盛、和生の典侍局、文昇の義経、簑次の安徳天皇

おりう実は局は和生で、さすがにしっとりと品のある様子。幼い帝へ愛情を注ぐ優しさと忠義一筋の心根が見えるよう。帝を抱き上げる仕草、帝の顔を振り仰いでみる様子、そんなふとした動きに帝への敬慕が現れるようなのはさすがに立派。

知盛の玉女は師匠玉男亡き後の持ち役として場数を踏んでいるだけに安定した出来。特に最後の手負いとなって戻ってきてからが、力の入った大きな動きで知盛の無念と恨みの深さ、それが一転しての諦観、と言う心の動きを見せて立派。

文昇は東京での襲名披露。すっきりとした御大将の落ち着きある様子を見せた。
簑次の安徳帝もなかなか。

文字久と喜一朗が、冒頭の世話物めいた場面でのおりうと銀平を躍動感を持って語って上等。文字久さん、好調持続で嬉しい。
英と清介は銀平が装束を改めてからの場面を能がかりの語りで朗々と聞かせて荘重な雰囲気。
後半は咲と燕三で、局と帝のくだりではもう少ししっとりした哀調がほしい気もするが、知盛の勇壮さを力強く聞かせ、燕三の豪快な三味線も場にふさわしく盛り上げて上々。

同 道行初音旅 (吉野山)
津駒・咲甫・芳穂・靖・咲寿、寛治・喜一朗・寛太郎・清公・錦吾
簑助の静、勘十郎の忠信実は源九郎狐

第二部の桜丸切腹の段と共に、今月の呼び物がこの吉野山。なんたって簑助さんの静御前だもの。何を措いても観なくては。
歌舞伎より長い序奏の後、紅白の幕が切って落とされると桜が満開の舞台に一人たたずむ静御前。「見渡せば~」の義太夫に合わせて少し顔を上げて遠くを見るように周りを見回すその仕草の美しさ。それだけで舞台上だけでなく、客席まで満開の桜になったかのような気分になる。

静が打つ初音の鼓に引き寄せられるように現れたのは勘十郎の狐。最初は火炎模様の着付けと裃で狐の人形を持っての登場だが、早替わりで黒と銀の縞の裃へ着替えて忠信にという変化も楽しい。

二人揃ってからは手踊りから扇を出しての踊りとなり、「雁と燕はどちらがかわい」での揃って扇を開いての踊りが何とも艶やか。さらに八島での戦語りでは手拍子足拍子も生き生きと踊る様子が華やかで、二人の息もぴったりでそれはそれは美しくてもう惚れ惚れするような様。いや~、もうどう言葉を尽くしてもこの舞台の美しさ素晴らしさは表現できない。まさに恍惚。

ちなみに矢に見立てて静が後ろ向きに扇を投げるところは、この日はちょっとそれてしまった(3回観たうち命中は1回)が、これって簑助さんが投げてるんじゃなくて黒衣が投げてたのね。初めて気がついた。いや、ひょっとすると昔は簑助さんが投げてたかもしれないけど。

浄瑠璃は掛け合い。寛治の三味線が華やかにリードして舞台の美しさに華を添えた。寛太郎ちゃんの席次(?)がだんだん左に行っているのが頼もしいな。

本当に素晴らしくて、観られたことが幸せと感じられる、次にはいつ簑助さんの静が観られるかな、と思うと寂しいくらいで、お墓まで自慢話に持って行けるような名舞台でした。