10月31日(日) 三井記念美術館
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html



前日台風がかすめて行って、普通翌日は台風一過で晴天になるのに、ちっとも青空がのぞかない。気温も上がると言っていたのにやっぱり肌寒い。なんだか変な10月最後の日曜日。

日本橋は、週末新しいビルがオープンしたりして、珍しくざわざわした雰囲気。でも私はそういうところには向かわずに、美術館へ。

今回の展覧会は「円山応挙 -空間の創造」とあるとおり、応挙の絵、特に襖絵の余白を生かして立体的な空間を描き出した点に重点を置き、応挙が当時の日本画では珍しい遠近法を習得した、若き日の「眼鏡絵」と呼ばれる風景画などを見せ、後半では大画面の障壁画数点を展示している。

「眼鏡絵」は、西洋画を見慣れた現代の私たちの目には何の変哲もなく見えるが、たとえば同時代の浮世絵などの遠近感のない絵と比べれば、それがどれだけ斬新なものかよくわかる。ちゃんと消失点を持った日本画なんて、ほとんどないもの。

そして眼目の屏風や襖絵。
今回、特に訳があったのかは知らないけれど、出品されていたのはほとんど墨だけで描かれた比較的地味な絵ばかり。


「雲龍図屏風」
応挙と言えば精緻な写生力も特徴の一つ。たとえば、応挙が描いた絵から鶏が抜け出すので絵に網をかけた、なんて逸話があるくらい。
この絵の龍は、もちろん空想の生き物だが、応挙にかかるとまるで見てきたような迫力。渦巻く雲に乗った龍の体に所々塗られた金泥が効果的。北斎とか他の画家の描く龍は、どこかユーモラスな味があるのが多いが、応挙のはまさしく「神獣」、と言った趣。


「雪梅図襖」(部分)
細かな描写と大胆な省略、と言う応挙のすばらしさがよく見える図。枝に咲く梅の花は一つ一つ丁寧に、でも速い筆致でささっと描かれたよう。太い幹はほとんど輪郭だけ。そしてこの枝の曲がり具合が、現実にはなさそうで、でも絵の空間に実にぴたりとはまっている。


「雪松図屏風」
右双の松は奥から手前に直線的に枝を伸ばし、左双の松は手前から奥に曲がりくねった枝ぶりを見せる。まるで男松と女松のよう。金地だが、琳派の金箔絵のような豪華さはない。近づいてよっく見ると、地と松の葉とその上の雪との重なり具合が絶妙で、どれを最初に描いて塗り重ねたのか素人にはわからない。

チラシの絵は「松に孔雀図屏風」(部分)
上の「雪松図」とともに、応挙の松を描いた二大最高傑作だとか。

他に「竹雀図」なども傑作。

応挙の絵を見ると、余白の奥深さに感じ入る。何も描かれないことで見えてくる奥行きと立体感、そこから生じる緊張感と、矛盾するようだが安らぎも。

琳派の絵や、若冲のような派手さ、面白さとは違うが、応挙は日本画の美の一つの頂点だと思う。

11月28まで。前後期で展示替えあり。「雲龍図」と「雪梅図」は前期のみ。