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錦秋十月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

10月25日(月) 新橋演舞場

一、頼朝の死(よりとものし)
源頼家  梅 玉           
尼御台所政子  魁 春             
畠山重保  錦之助              
小周防  孝太郎             
別当定海  男女蔵          
別当慈円坊祐玄  亀 鶴               
音羽  歌 江             
藤沢清親  市 蔵             
榛谷重朝  門之助             
中野五郎  右之助           
小笠原弥太郎  秀 調             
大江広元  左團次   

今月は、国立劇場で青果もの二本立ての上に、演舞場でもこれがあってちょっとした青果祭り状態。黙阿弥ばっかりとか、近松ばっかりというのはたまにあるが、青果を立て続けに見るのは正直しんどいものがある。

そのしんどい青果の中でも一二を争うのがこの「頼朝の死」。なにしろくどい、暗い、救いがない。実を言うと、何故これが繰り返し上演されるのか、よくわからない。この演目を「好き」という人にあったことがないんだもの。

頼朝を誤って斬ってしまった重保は罪悪感にさいなまれ、真実を知らされない頼家は執拗に秘密を暴こうとし、尼御台は源家を守るために何があっても隠し通そうとする。そして犠牲になる、何の罪もない女。
この筋で、明るく楽しい芝居になるわけがない。
「将軍江戸を去る」だって、十分理屈っぽくて辟易するところがあるが、これに比べれば、まだ最後にそれなりのカタルシスを味わえるが、こっちはほんとに最後までどうしようもないのである。

そのどうしようもない筋立てを救うのは、役者の力しかない。
当たり役の梅玉の頼家は、このファザコンで、勘気が強く、将軍に生まれついたという気位だけは高く、周りの状況を見ようとしない、為政者としては暗愚な男を(だから史実ではもうすぐ殺されちゃう)、ぎりぎりのところで観客に嫌悪感を抱かせず、悲運の貴公子として最初から最後まで通すことに成功している。
幕開き、月に照らされた横顔から哀愁が漂うのがさすが。朗々とした台詞回しを聞かせて、頼家の怒りと哀しみ、絶望を見せてさすがに当代一の青果役者だと思った。こういう哀愁の貴公子がこれだけ似合う人は他にいないなあ。

重保は錦之助、こちらもニンに合って、罪の意識に苦しむ様子を品よく見せて上々。錦之助にはいつか頼家もやってほしいな。
小周防は孝太郎で、しっとりとした腰元の雰囲気に、重保に恋するいじらしさと、思いがけない真実に苦悩する様子を見せてなかなか。
そして尼御台は初役の魁春だが、まださすがに荷が重い感じ。立女形という感じではない人なので、どうしても優しげに見えてしまい、最後の眼目の台詞「家は末代、人は一世」もいささか迫力不足の感。青果は結局これが言いたいためにこの作品を書いているんだろうから、この台詞が決まらないと、芝居が成り立たない。やっぱりこの尼御台は、富十郎みたいに立ち役もやる人の方が大きさがあって良いような気がする。

七世坂東三津五郎 五 十 回忌  
八世坂東三津五郎 三十七回忌追善狂言  
九世坂東三津五郎 十 三 回忌
二、連獅子(れんじし)
狂言師右近後に親獅子の精  三津五郎     
狂言師左近後に仔獅子の精  巳之助              
僧遍念  門之助              
僧蓮念  秀 調

夜は「どんつく」、昼はこれが追善狂言。
大和屋親子で本公演での上演は初めてとか。いろんな親子の連獅子を見てきたが、高麗屋ほど二人が好き勝手でもなく、中村屋ほど隅々まできっちりでもなく、という感じ(笑)。

三津五郎の踊りはピカ一で、今更何も言うことはない。特に前半の狂言師としての様子に品があり、美しさもあってさすがに立派。

巳之助の踊りが、たとえば同世代の他の役者に比べて上手い方なのかどうか、私にはわからない。少なくともまだ取り立てて「踊り上手」と言われるほどではないと思う。でも今回は、追善と言うこともあるだろうが、とにかくちょっとでも父について行こうという気概がすごく見えた気がする。そういう意味で、この演目は本当にぴったりだった。厳しい父と、食らいつく息子。

特に最後の獅子の毛振りでは、途中までは二人揃っていたのが、最後の最後に巳之助がすごくがんばって振ったおかげでかえって揃わなくなって、見た目的には良くなかったのだが、そのがむしゃらなまでの振り方に巳之助の必死の覚悟のようなものが見える気がして、なんだか感動してうるうるとなってしまった。
大和屋のご先祖様たちも、きっと喜んで下さっていると思う。三津五郎さん、良い追善になりましたね。

三、盲長屋梅加賀鳶
  加賀鳶(かがとび)
  本郷木戸前勢揃いより   赤門捕物まで       
天神町梅吉/竹垣道玄  團十郎            
女按摩お兼  福 助           
春木町巳之助  三津五郎              
魁勇次  錦之助            
虎屋竹五郎  進之介             
磐石石松  男女蔵           
昼ッ子尾之吉  巳之助               
お朝  宗之助            
御守殿門次  薪 車            
数珠玉房吉  亀 鶴           
金助町兼五郎  市 蔵             
妻恋音吉  門之助          
道玄女房おせつ  右之助             
天狗杉松  秀 調           
伊勢屋与兵衛  家 橘           
御神輿弥太郎  友右衛門             
雷五郎次  左團次            
日蔭町松蔵  仁左衛門

第一幕の勢揃いでは、ストーリーと言うほどのことはなく、ひたすらずらりと並んだ鳶の連中の江戸っ子の気っ風の良さ、かっこよさを堪能する。この演目を見る時は、花道が見える席でないと面白さ半減どころじゃない。今回も、仁左様が最後尾だし。團十郎もここでは颯爽とした姿を見せ、まさに江戸の粋を堪能する。

道玄となっての團十郎は、かなり滑稽さを見せた形。表情をころころ変えたり、怪しい手つきをしたりで笑わせた。その分、道玄の非道さが弱くなった。兼ね合いの難しい役ではある。團十郎にしては珍しい役だが、軽妙に笑わせた。大詰めの捕り物の場はいつ見ても可笑しい。

相棒のお兼は福助で、観る前はどうなることやらと思っていたが、予想よりは控えめで(?)、普段悪婆をやるときよりは行儀良かったかも。ただ、お兼にしては顔が白い気がして、違和感あり。良家のおかみさんじゃないんだから。質屋や捕り物の場面で笑わせるのはサービス精神たっぷり。

そして仁左衛門の松蔵がさすがに颯爽としていかにも鳶頭の粋を見せてくれた。質屋でも道玄との対決も小気味よい台詞で聞かせて面白く、黙阿弥の楽しさを満喫。こういう粋でカッコイイ役は本当に似合うなあ。

序幕の勢揃いに珍しく進之介が出ていた。この人、ルックスも悪くないし、もっと出ても良いのになあ。なんたって松嶋屋の御曹子なんだし。と、子供の頃から知ってる上方出身の人間としては活躍を願っております。
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