7月20日(火) 東京都庭園美術館
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/arimoto/index.html


もしも、自宅マンションの壁に飾る絵を古今東西何でも良いから選ばせてあげると言われたら、有元利夫の絵は有力な選択肢のうちに入るだろう。いや、もっと好きな画家や絵はあるけれど、たとえばレンブラントの「イサクの犠牲」やボッティチェッリの聖母子像や、はたまた琳派の絵も水墨画も、物理的に無理だもの。その点、有元の絵は、マンションの白い壁に1枚だけ掛けても違和感ないような気がするのよね。

有元利夫の絵を初めて見たのがいつだったかもう覚えていないけど、それは実物を展覧会で見たのではなくて、本の表紙かCDのジャケットに使われていたのを偶然目にしたのだと思う。
一見、中世の絵画から抜け出してきたような不思議な人物と簡略な背景から紡ぎ出される、穏やかで静謐な雰囲気がとても印象的だったが、現代アートに興味がなかった自分は、ちょっと面白いな、とは思ったものの深く追おうとはしなかった。
だがその後もたびたび彼の絵を目にする機会は増え(DENONの古楽器シリーズのCDジャケットにはずっと有元の絵が使われていた、たぶん今も)、興味がわいたのだが、実はそのときすでに有元は故人だったのである。それも38歳の若さで亡くなっていたとは。

今回は没後25周年の回顧展。絵画だけでなく、少ないが陶器の人形や器なども展示され、短すぎる画業を一望出来る。


出世作ともいえる「花降る日」(1977) 花びらと光が降り注ぐ螺旋を登っていくとどこへたどり着くのだろう。


「ささやかな時間」(1980) バロック音楽を好み、自分でもリコーダーを吹いたという。彼の絵とバロック音楽ってはまりすぎ。


「一人の夜」(1982) 珍しく樹木が背景に描かれている。枝の描き方や色彩が、ちょっとアンリ・ルソーを思い出させる。


「雲を創る人」(1983) いったいどうやって雲を創っているのか。摩訶不思議な世界。


「出現」(1984) 死の前年の作品。現れたのはキリストだろうか、または仏陀だろうか。ルドンの絵も連想させるし、平山郁夫の仏画のようでもある、とても内省的な絵。

フレスコ画に影響を受けたという独特のタッチの絵は、なんだか懐かしくて優しい気持ちにさせてくれるが、決して単なる懐古調でもなく、有元が切り開いた独自の新しい世界。

3連休明けの平日の午後、庭園美術館はひっそりとしていて、有元の絵と向き合うのにぴったりだった。
絵はがきがばら売りがなかったが、16枚セットで1380円とお得だったので図録よりこちらを買った。(図録は、前にあった展覧会とかぶっていたので)
「オルセー展」の人混みにげんなりした方、是非こちらへどうぞ。


青が散る〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: 宮本 輝
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 文庫


宮本さんの本には有元の絵を使ったものが多い。これもその一つ。


モーツァルト:フルートと管弦楽のための作品全集

  • アーティスト: 有田正広,モーツァルト,東京バッハ・モーツァルト・オーケストラ,長澤真澄
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2006/12/05
  • メディア: CD


こちらはフルートトラヴェルソの有田さんのCD.。