4月12日
Bunkamuraザ・ミュージアム
http://www.ntv.co.jp/lempicka/index.html



歌舞伎座で第一部を見終わって、第三部までの間が4時間近く。どうやって潰そうかと考える。小心者なので、一人で喫茶店にいられるのはせいぜい1時間。大型書店かレコード店があればそれぞれ1時間くらいは過ごせるのだが、生憎銀座にはタワーも紀伊国屋もなかったっけ。と考えて、もうどうせだから渋谷まで行っちゃえ、と氷雨の中を移動。(この日は本当に寒かったんです)

タマラ・レンピッカという画家の名前は聞いたことがあったようななかったような。チラシの絵を見てもそれほど好みというわけでもなかったのだけれど、ちょっと面白そうかな、と思ってみてみることに。

レンピッカはポーランド生まれ、ロシアで結婚して、ロシア革命の時にパリに亡命、1920年代から画家として売れっ子になり、第二次世界大戦後はアメリカに亡命、と波乱の人生を送った人。絵はもちろん、レンピッカ自身がモデルか女優のような美人で、パリの社交界で華々しく脚光を浴びたというのも、写真を見るとうなずける。


1929年頃の写真。何も知らずにこれを見たら、こんな女優いたかな?ガルボじゃないし、ディートリッヒでもないけど。。。と思ってしまいそう。

画家としてもっとも活躍したのは1920~30年代で、ちょうどアール・デコの時代。アール・デコというと、絵画よりもデザインや工芸作品を連想するけど、レンピッカの絵は、アール・デコを絵で表すとこうなる、というような不思議な雰囲気がある。
モデルの肌のつるつるとした陶器か金属のような感触、背景の幾何学的な処理。それらが時に冷たく、時にエロティシズムを感じさせる。

チラシの「緑の服の女」。モデルは愛娘。この肌のすべすべ感は誰かの絵に似てるような‥‥。と思い当たったのはなんと100年も前のアングル。あれからマネやドガやルノワールを経てここへ戻ってくるのか、と目が回る気がした。


これも娘を描いた「ピンクの服を着たキゼット」。ちょっと挑発的な目つき。なぜか片方脱げた靴。その意味深さから、ナボコフの「ロリータ」の本の表紙によく使われてきた絵だとか。ふうん。


こちらは当時の夫「タデウシュウ・ド・レンピッキの肖像」。こちらも俳優みたいにダンディ。でもこの絵が描かれた頃離婚調停中で(そんなときに肖像画を描くかなあ?)、結婚指輪をはめた左手が未完成に残されたまま。


「カラーの花束」。レンピッカはカラーの花が好きだったそうで、他の絵にもよく登場する。豪華なバラじゃなくて白いカラーなのね。

いちばん感心したのは、どの絵も同系色の中でのグラデーションがすごく綺麗。「緑の服」も夫の黒い服やシルクハットも、白いカラーも、微妙な陰影の中に対象が浮かび上がるよう。決して色数の多い絵ではないのに、華やかさが感じられるのはそのせいだろうか。

アメリカに渡った後の後半生は、次第に忘れ去られて不遇の時代を過ごしながらも絵を描き続け、最晩年になって再び脚光を浴び、82才で亡くなったそう。まさに20世紀を意志のおもむくままに走り抜けた、一人のモードな女性芸術家。
これだけまとまって観ることができる機会はまれだそうなので、お薦めです。