3月14日
国立西洋美術館
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日曜日の午後、上野は凄い人。この半分くらいは等伯展に向かうんだろうか、と思いながら手前の西洋美術館へ入る。こっちは日曜とは思えないくらい空いていました。

フランク・ブラングィンなんて名前も聞いたことない画家だったので、この展覧会もあまり興味がなかったのだけど、先週の「日曜美術館」で紹介していてちょっと面白そうだったので見てみることにしました。ちなみに番組には幸四郎がゲストで出ていました。なんでもこの画家の絵を持っているとかで、番組で見せていました。

ブラングィンはベルギー出身でイギリスで活躍した人。国立西洋美術館の礎となった松方コレクションに大いに関係をしたと言うことで、今回この美術館開館50年を記念しての回顧展の運びとなったらしい。

ブラングィンは、はじめにウィリアム・モリスの工房で修行をすることからアーティストとしてのキャリアをスタートさせている。そのためか、作品には家具や食器などのデザイン、壁面装飾、版画などもあり、とても幅広い活動をしている。

家具などはいかにもアール・ヌーヴォー調の品の良いもの。

ダイニング・チェア

展示の中核は油絵。大きめのものが多い。カンディンスキーも注目したという色彩の豊かさが特徴か。だがところどころに原色を取り入れて鮮やかさもあるが、例えばゴーギャンやマティスのような派手さはないのは、全体としてはどちらかというとスモーキーな抑えた色調だからだろう。


チラシの絵は「りんご搾り」
手前の裸の男の子がキューピッドみたいだし、字に隠れて見えにくい左端には笛を吹いてる子がいたりして牧歌的だけど、神話の絵じゃないのよ。

壁面装飾も手がけたこともあってか、油絵でもどことなくタペストリーやフリーズの下絵のような雰囲気のする絵が多かった。装飾的という意味で、ドニとかボナールに近いものも感じたけど、とても独特で面白い絵。


「白鳥」
これなんかはラファエル前派っぽさとアール・ヌーヴォーが調和したようで、ちょっとミュシャも思わせるものもあり、とても綺麗で印象的だった。

また版画の分野では、日本人の刷り師漆原由次郎との共同作業で美しい、浮世絵を思わせる作品をたくさん作っていてこちらも必見。それにモノクロのエッチングもレンブラントのような深みがあって、白と黒だけではない中間色を感じさせる見事な作品があった。


「ブルージュのベギン会修道院」
手前に木立を配した構図がとても浮世絵っぽい。

そして松方との関わりとして、松方コレクションを展示するはずだった「共楽美術館」の建築デザインをも手がけている。このデザインの下絵や、それを元にしたCGでの美術館の画像も見ることができて興味深い。共楽美術館は政治、経済情勢など諸処の事情で実現できなかったが、もし出来上がっていたらその後の日本美術界への影響は大きかっただろう。

ブラングィンの作品を多く所蔵していたロンドンにあった松方の倉庫が火災に遭い、ブラングィンの作品も消失してしまったという。それでなければ、現在もっと評価されているのでは。
これだけ幅広い分野で作品を残し、それぞれがかなり高い水準のオリジナリティのある優れたものというのは、忘れられるにはもったいないアーティストだと思った。
予想外に見応えのある展覧会だったので、ぜひご覧下さい。


なお、常設展示室では関連企画として、松方コレクションを中心とした水彩・素描画展もやっている。チラシのモローの「聖なる象」や、ドガの「背中を拭く女」など小品ながら魅力的な作品が並んでいるので、こちらもお見逃しなく。