4月13日

Bunkamuraザ・ミュージアム
国立トレチャコフ美術館展
http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/shosai_09_tretyakov.html



ブルーノートに行く前に、渋谷に出てBunkamuraへ。
平日夕方とあってそれほど人は入っていなくて、ゆっくり鑑賞できた。

19世紀のロシア美術と言われても、画家の名前が一人でもすっと出てくる人はそう多くないと思う。
プーシキンやトルストイ、昨今大ブームのドストエフスキーなどの作家や、チャイコフスキーやリムスキー・コルサコフなどの音楽家に比べて、どうもこの時代の美術家の知名度は劣ってしまう。美術の教科書になんか、絶対載ってないし。
それが何故かというのは、この展覧会をざっと観ても何となく解るのだが、時代をリードする新しさがないせいではなかったろうか。

実際、19世紀後半ともなれば、フランスでは印象派が台頭して美術界を席巻してくるけれど、ロシアへは伝わらなかったのかと思うくらいほとんど影響が感じられない。もちろん、全く影響がなかったわけでもないだろうけれど、それほど露骨な吸収のされ方はしていないように感じられた。

つまり、画風としてはあくまでもリアリズムを追求した絵が並ぶわけで、悪く言えば保守的で古風。でも逆に言えば、観る方は変な不安を覚えずに安心して絵の世界に浸ることができると言うことでもある。

展示作品は、風景画と人物画が半々くらいだろうか。どれも技術的には非常に高度で、写真かと思われるくらい精緻なものも多い。
特に風景画は、ロシアの広大な大地や深い森、冷え冷えとした冬の都会など、フランス絵画には見られない世界を写し出していて、とても魅力的。

森を見ればツルゲーネフの「猟人日記」の舞台はこんなかしらと思い、田舎の地主の邸宅を見ればプーシキンの「エフゲニー・オネーギン」を思い出し、モスクワやペテルスブルクの風景を見ればトルストイやドストエフスキーの主人公が歩いていそうに思う、なんて言う見方は、印象派の絵を見ても絶対にしないことで(いや、する人はするだろうけど、私はしないな)、ただ単に絵を鑑賞するというのとはひと味違う楽しさを味わうことができた。

人物画もそうで、ポスターの絵はクラムスコイの「忘れえぬ女」。原題は「見知らぬ女」だが日本ではこの題で通っているとか。黒い瞳に黒い髪。やっぱりフランスの絵にはあまり出てこなさそう。モデルが不明というのも謎めいているが、解説にもあったがアンナ・カレーニナや「白痴」のナスターシャを思わせる魅力的な女性。


ベルヴーヒン「秋の終わりに」
遠くに見えるのはネギ坊主の屋根からしてロシア正教の教会か修道院だろうか。ちょっと郊外に出ると広々とした林や野原に囲まれるロシアの風景。


オストロウーロフ「黄金の秋」
今回私のいちばんのお気に入りの絵はこれ。まさにタイトル通りの、短い秋を祝うような黄金の森の美しさに息を呑む。

それにしても、こういう画風のロシア美術界から、ほんの10年か20年先にはシャガールとカンディンスキーが登場するというのは、まるで突然変異のようでもあり、面白い。