3月3日
東京都美術館
http://www.asahi.com/ac/



雛祭りだというのに寒い日。午後から雪が降るかも、と言うので昼前に出かけたが、平日のせいか割とゆっくり見ることができた。

「役にたたないもの、美しいと思わないものを家に置いてはならない。」
凡人にはちょっとギクッとするこの言葉は、イギリスのアーツ&クラフト運動の生みの親、ウィリアム・モリスのもので、本展のポスターにも書かれている。
アーツ&クラフツ運動は、産業革命が進む中、民衆が生み出した手工芸の良さを見直し、生活を彩る装飾に生かそうとするもので、モリスらは家具、壁紙やカーテンなどのファブリック、食器類などおよそありとあらゆるものをデザイン、制作した。その多様さはこの展覧会の展示品でも十分堪能することができる。一つ一つが丁寧に作られた上質な味わいを持ち、しかしそれまでの王侯貴族などのために作られた一品ものの豪華絢爛さとは違う、あくまで「日常使い」なもの。う~ん、確かに家中にこういうものが溢れていて、こういうものに囲まれて暮らしていけたらどんなに素敵かしら。

モリス 内装用ファブリック「いちご泥棒」

でも、と、ちょっとあまのじゃくな私は思う。例えばファブリックや壁紙。モリスのデザインはほんとにおしゃれでかわいくて色使いも素敵。でもこんな色柄が部屋の壁面いっぱいに使われていたら、何だか疲れないかなあ。確かに欧米に行くとホテルやレストランなんかでこういう室内装飾のところを見ることがあって、ちょっと見たところ豪華できれいなんだけど、毎日暮らすとなると、どう?

グリーン・ダイニング・ルーム

例えばこれは今回再現展示されていてモリスの家のダイニング・ルームだけど、こういう部屋で食事したいとは私はあんまり思わないのですね。やっぱり欧米のデザインって、日本人の感性からすると装飾過多、っていう気がしてしまう。

ま、それは別にして、自分の家だったらなんて馬鹿な考えは捨てて見ていけば、どの作品もとてもきれいで素敵。特に椅子などの家具や食器は、これだったらほしいかも、なんて思うものも。

本展の特色は、アーツ&クラフツ運動を本家イギリスのものだけとせず、ウィーンを初めとするヨーロッパ各国での広がり、さらに日本での民芸運動につなげて見せていること。
特にウィーンでは、ココシュカやホフマンらの作品があり、これまで「アール・ヌーヴォー」のくくりに入れていたものと「アーツ&クラフツ」との関連性が見られて、新鮮だった。ホフマンがここにはいるなら、今回は一つも展示がなかったけど、ティファニー(アメリカだから?)なども入れてもいいはずで、とするとアーツ&クラフツとアール・ヌーヴォーって、基本的には重なってしまうのかしら?などと素人頭で考える。
それをいうと、モリスとラファエル前派のつながりもあって(なにしろ、奥さんを巡ってロセッティとは三角関係!)、こちらも重なっているのよね。

さらに日本のコーナーでは、柳宗悦が提唱した民芸運動を紹介、柳が収集した民芸品や、河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチらの陶芸品が展示され、柳が建てた「三国荘」の再現もある。ただここで、柳が集めた民芸品や木喰の仏像などを見るのは、それまでのコーナーがあくまでアーツ&クラフツ運動の結果生み出された作品であって民芸品ではないことを考えると、いささか流れが違うというか、違和感があった。もちろん展示されていたものが、質的に見劣りがするという意味ではなく、「作品」ではないんじゃないかな、という気がしたのだ。

さて、家に帰って見回せば「役にたたない、美しくない」ものが溢れている。ふぅ~、と溜息は出るけれど、そういうものが一つもない環境というのも、私などは逆に息が詰まってしまいそうな気もする(笑)。