三菱一号館美術館

19世紀末のパリで飛躍的に発展した版画、ポスターなどのグラフィック・アートに着目した展覧会。

版画自体はレンブラントやデューラーを出すまでもなく、昔から絵画芸術の一端にあった。だが思えばそれはモノクロで、こういった多色刷りの版画が大量に作られるようになったのはこの頃。(それを思うと、日本の錦絵って凄いと改めて思う)
大量生産できる版画の普及でアートはポスターとして町中のあらゆるところに張り出され、また一方では好事家のコレクターアイテムとしての限定作品が作られ、今までのいわば「一品物」の絵画とは一線を画す市場が誕生した。
そういった時代に中心的役割を果たしたのがロートレック。


ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ/ロートレック(1891)
ロートレックの出世作。猥雑な雰囲気に客のざわめき、酒や煙草の臭いまでしてきそうな。


ジャヌ・アヴリル(ジャルダン・ド・パリ)/ロートレック(1893)
アヴリルが有名になるきっかけとされる1枚。手前に大きくバスのネックを配した構図は浮世絵の影響とも。

ロートレックだけでなく、ポスト印象派のドニやボナールらも意欲的にグラフィックアートに取り組んだ。


『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター/ピエール・ボナール(1894)
ボナールやドニの絵は、油絵でもどこか版画的な色使いが感じられる。


モーリス・ドニ 《『アムール(愛)』表紙》 1898年
なんとなくアール・ヌーボーの雰囲気も漂う。


フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテ Ⅴ)》1898年 木版
ヴァロットンもナビ派。
思えば、印象派には版画作品はあまりない。ナビ派を始めとするポスト印象派がグラフィックに関心が強かったのは、画風からなのか、技術がちょうど発達したからなのか。ヴァロットンなどは、前の展覧会で油絵作品も見たが、正直言って版画の方が特徴が出て面白く感じた。

ポスターなどとして張り出されるだけでなく、シリアルナンバーのついた限定作品としての版画は人気を呼んだそう。
肉筆油絵を購入できる層は限られていただろうが、版画なら買える中産階級の心を惹いたのかも。

ロートレックの作品などは、何度も見たことがあるので新鮮味はないかと思ったが、別刷りの色が違うものや、ステートの違うものなども展示されて興味深かった。


会場の中には撮影可のコーナーも。