3月19日(火) 赤坂ACTシアター


一年にわたった勘九郎襲名披露興行は先月終わったが、これも襲名記念公演となっている。
勘三郎が始めた赤坂歌舞伎、勘九郎七之助で幕を開けることに本人も贔屓も感慨があるだろう。

私自身は、この劇場は初めて。内部の壁が黒く、ちょっとルテ銀みたい。でも2階席もあるからルテ銀よりは大きいのかな。

実はこれは当初見る気がなかったのでチケットを取っていなくて、開幕後評判が良いので見る気になったが安い席は完売。かろうじて立ち見席があったのでそれにした。芝居で立ち見って初めてかも。

三遊亭円朝 口演
怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)
  中村勘九郎三役早替りにて相勤め申し候           
菱川重信/下男正助/うわばみ三次  中村勘九郎                      
重信妻お関  中村七之助                       
松井三郎  片岡亀 蔵                       
磯貝浪江  中村獅 童

どうして最初見る気がなかったかというと、演目が好きじゃないから。怪談はともかく、早替わりものってどうしてもそこだけに目が行って、芝居としては面白くない。前に勘三郎で見た時でさえ、ふ~ん、位にしか思えなかった。

で、今回はと言うと、声から顔から勘三郎を思い起こさずにはおかない勘九郎、もちろん勘三郎をよくよく知っている人には違いがいろいろあるんだろうけど、私なんかは、うわ―お父さんそっくり―、と思う瞬間の連続。でも勘三郎と異なるのは、例えば正助の時勘三郎はもっとお笑い系になってしまっていたのだけど、勘九郎はあくまで朴訥さが前に出る感じ。重信は生真面目。意外にいちばんニンに合って見えたのがうわばみ三次で、凄味とふてぶてしさが見えたのは面白い。たぶんお父さんより陰の部分が多いんだろうな。

早替わりはほんとうにあっと言うほどスピーディ。花道のない会場だから、客席通路を花道代わりに使ってそこを通りながら替わる場面なんか、ほんとに「どうなってんの?」と思ってしまう。それでハタと思ったのは、この演目は歌舞伎座や演舞場のような大きな小屋でやるものじゃないんじゃないかと。こういう小さなところでお客さんの目の前でやって見せて拍手喝采、と言うのが本当だったんじゃないか。
もうじき歌舞伎座が開場するけど、小屋にあった演目、演目にあった小屋、ってやっぱりあるよね。

七之助のお関、子供もいる人妻の落ち着いたたたずまいの中にも人目をひく美しさと色気がある。そしてその美しさ故に、無自覚に男を引き寄せ、流されて結果的に浪江の罪に荷担する愚かさを儚げに見せる。ひゃ~、いつの間にこんな眉なしも似合うようになったんだろう。

獅童の浪江は相変わらず歌舞伎の台詞回しじゃないんだが、この芝居ならまあいいか、と言う感じ。悪人の凄味や冷酷さよりも、正助を脅すところのおかしみの方が強く感じられてしまうのはどうかと思うが、まあそこはお客さんへのサービスと見るべきか。

亀蔵が少ししか出番がなくてもったいないが、しっかり締めた。今回、亀蔵のやった三郎を最初と最後に出したことで、浪江と三次の素性と悪行が知れて話が通ってわかりやすくなった。それにやっぱり最後の仇討ちの場面は出さないとダメだよね。前勘三郎がやったみたいに滝の場面で終わると話が宙ぶらりんになってしまう。

小山三が冒頭の茶店の女で出てきて、客やお関に「いつも若くて元気ね」と言われるのはお決まりで、客席からも拍手拍手。顔を見せてくれるだけでこっちまで嬉しくなる。

休憩を入れても2時間半くらいで、立ち見でもそれほど疲れずに観ることができた。見て良かった。
勘九郎も七之助も、これからますますがんばって。でもできればまだ若いんだから、播磨屋さんでも松嶋屋さんでも良いから大歌舞伎に脇で出して貰って勉強してほしい。お父さんが居る間はそれが出来なかったから。