10月18日(火) 新橋演舞場

金欠のため、今月は演舞場は行かないつもりだったが、観た人の評判が良いのでやっぱり夜だけ観ることにした。
今月は、愛之助、獅童、亀治郎の花形3人を柱にした公演で、特に夜は亀治郎が伯父猿之助の手がけた演目を3役早替わりで務める話題の舞台。

猿之助四十八撰の内
通し狂言 當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)

小栗判官兼氏/浪七/娘お駒  亀治郎               
照手姫  笑 也             
鬼瓦の胴八  右 近       
横山次郎/膳所の四郎蔵  猿 弥              
後家お槙  笑三郎            
浪七女房お藤  春 猿              
横山郡司  寿 猿              
横山三郎  薪 車              
局 藤浪  竹三郎       
矢橋の橋蔵/上杉安房守  獅 童              
遊行上人  愛之助              
横山大膳  段四郎(休演により、右近代役)

猿之助が舞台に立てなくなって数年、澤瀉屋一門は苦労してきたと思う。玉三郎や海老蔵の公演に脇で付き合ったり、右近らを中心にしてスーパー歌舞伎もやっては来たが、はっきり言って面白くなかった。いくら一門の結束を歌っても、求心力を失っているように見えてしまった。
それが今回、来年猿之助襲名が決まった亀治郎が戻って来たことで、亀治郎はもちろん、右近や笑也なども輝きを取り戻したように見えた。核になる人がいるのといないのと、こんなに違うものなのか。去年のあのつまんなかった「四谷怪談忠臣蔵」をやってた面々と同じとはとても思えなかったわ。

3役奮闘の亀治郎、これまでこの人は女形の方が良いと思っていたが、今回初めて立ち役の方が良いと思った。特に波七。伊達でかっこ良かった。派手な立ち回りもこなし、魅せた。
判官の方はああいうすらっとした二枚目には濃すぎるかも。でもこちらも暴れ馬を乗りこなすシーンが颯爽として面白かった。
お駒は本来本役だが、故にやややり過ぎの感もあり。もっともお駒の、判官に恋い焦がれるあまり死んでも祟ってしまう情念深いところなどはさすが。

笑也が久しぶりに華のあるところを見せた。ほんとに綺麗だったなあ。思えば猿之助の、今度は亀治郎の相手をし、二代にわたって組んでも違和感のない衰えない美貌ってすごい。
右近も悪役ながら芯になる役どころで存在感を示し、ふてぶてしさを見せた。
笑三郎が、旧主への忠義のために娘をも犠牲にする気丈なところと、娘を思う母の情の両面を見せてさすがに上手い。
猿弥も手に入った悪人振り。特に四郎蔵の方の三枚目敵風の可笑しさはこの人ならでは。

獅童は狂言回しのようなおかしな役どころで笑いを誘っていたが、ううん、あれでいいのかねえ。全然歌舞伎の演技じゃないんだけど、ああいう役だから良いのかな。まあ、いいか、どうでも。
愛之助は最後の方にやっと出てくるお上人様の役で清潔な様子がぴったり。

馬の曲乗りの場面の馬を務める人まで含めて、隅々までかなり高水準な舞台。おそらく猿之助のいない澤瀉屋の舞台ではいちばんの出来だろう。来年6月には亀治郎が猿之助を襲名、香川照之が中車を名乗って一門入り、と話題の多い澤瀉屋、正直言って今まであまり観る気がしなかったのだが、当分目がはなせなくなりそうだ。