5月10日(火) 東京国立博物館
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3月の大震災以来、東京でも美術館の閉館があったり、展覧会の延期も相次いだ。この写楽展も当初4月始めからの開催予定が1ヶ月ほど延びて5月からになった。それでも、外国の美術館からの貸し出しが困難になって展覧会自体中止になったものもあるから、開催されただけでも良かった。

「謎の絵師」写楽。たった10ヶ月しか活動せず、本名も不明とあって、長く日本美術史上最大の謎の一つとされてきた写楽の存在。近年の研究でどうやら能役者の斉藤某という説に定着しつつあるそうだ。まあ、そういう謎解きはともかく、今回の展覧会は、写楽の絵にいろいろなアプローチで迫ってみようという構成になっている。

まずは写楽以前の浮世絵の役者絵を展示して、役者絵の系譜をたどる。

次に写楽と同時代の他の絵師の作品を展示。ここでは写楽を売り出した蔦屋重三郎が手がけた歌麿や北斎の絵を展示。

さらに写楽と、同時代の絵師が描いた同じ役者の絵を並べて比較することで、写楽の独自性が伝わる仕掛け。

次には同じ版画でも刷りや保存状態で色が違うのを並べてみせる。ステートの違いで模様や着物の紋などが違うなど、手直しが行われたのがわかるし、紫色は褪色しやすく黄色になってしまうのもわかる。

そして最後に改めて、制作時期順に現存するほぼ全作品を展示。

と言う風に、140点ほどの写楽の全作品を網羅して、余すところなく写楽の魅力を解明しようとする展覧会。
まあ、写楽好きにはたまりませんわ。
とは言え、構成上、同じ絵をいろんな説明で何度も展示(版画だからできる技。もちろんどれもオリジナル)してあるので、正直言うとだんだんだれて来ちゃう。肉筆画じゃないから、タッチがどうのってこともないし、専門家ならともかく、「ああ、またこれか~」って思うことも。それでも、説明はどれも丁寧で親切。特に役者絵の場合、歌舞伎の芝居のことを知らないと、どういう役なのかもわからないが、演目毎にまとめて粗筋と役の説明(悪役とか、後家だとか)したコーナーは、今までの展覧会にはなかった画期的な展示だと思う。


市川鰕蔵の竹村定之進

俗に写楽と言って誰もが思い浮かべるのは、役者の顔を大きく描いた大首絵と言われるものだが、これは実は初期の作品。後になるに従って、当時の主流だったのか全身像が増えていき、最後の頃には初期のオリジナリティを失ってついに姿を消してしまう。その失速の様を絵で見ると痛々しいほどの衰退ぶり。そこに蔦重の意図があったのかはわからないが、最初の勢いのまま描き続けていたら、と思わずにはいられない。


三代目沢村宗十郎の名護屋山三元春と
三代目瀬川菊之丞のけいせいかつらぎ