4月26日(火)
東京藝術大学美術館

(チラシの絵は速水御舟・夜梅 の一部。夜の月に照らされて咲く梅から気品ある香りが漂ってくるよう。)

「香り」にまつわる日本の様々なものを集めた、珍しいコンセプトの展覧会。

日本で「香を焚く」という行為が行われるようになったのは、6世紀の仏教伝来に伴ってのことだとか。日本には古来「香木」というのがなく、中国から入ってきて初めて日本人は「香」に接したというのは、蒙を啓かれる思いだった。以来、白檀を始めとする栴檀、伽羅などの沈水の大きく分けて二種類の香木が珍重されてきた。
中でも「蘭奢待(らんじゃたい)」は、字の中に「東大寺」をひそませた名香として宝物の扱いをされてきた、などというのも初めて知った。

会場では、そういった香木の実物も展示している。
そしてさらに、香を焚くための道具の数々。まずは仏具として始まった香炉が、貴族たちの生活を彩るものとして発展し、やがて「香道」が起こり、雅な遊びとなっていくかたわらで、江戸時代まで下っていくと香りがもっと身近なものとして人々の生活に取り入れられ、髪や着物に香を焚きしめると言った習慣も始まっていった様子が浮世絵などからも見られる。

土佐光吉・源氏物語絵色紙帖 「眞木柱」(左)「梅枝」(右)


桜文散七宝鞠香炉 江戸時代 着物の袂などに入れた香炉。七宝の優美な柄も美しい

この展覧会では、そういった様々な道具と、香りを感じさせる絵画を展示して、日本人の生活と香りの結びつきを良く見せてくれる。香炉や香合などの工芸品の手の込んだ品々の素晴らしさは言うまでもない。めずらしいのは香道のお道具類で、ただ香を「聞く」だけでなく、その点数を表すいろいろな小物がおもちゃみたいで可愛い!「香道」なんて言うとお作法とか難しそうだが、こういう遊び心溢れる道具を見るとすごく楽しそうと思えてしまった。
 
松竹梅蒔絵十種香箱 江戸時代 加賀の前田家伝来の優品。写真ではよく見えないが、金蒔絵の美しい一品。きっとお姫様の嫁入り道具なんだろうな。


三組盤 江戸時代 
「香木を聞き分けて、駒を進める競馬香、吉野の桜や 龍田の紅葉を立てる名所香、または矢を立てる矢数香の三種類の盤物の組香」ということだが、実際にどういう風に遊んだんでしょうね。ほんとに可愛い!


上村松園・楚蓮香之図 
「楚蓮香とは、中国唐時代にいた絶世の美女の名。外出するとその香りに魅せられて蝶が飛び従ったといわれている。」蝶ならまだ良いけど、蜂が飛んできたら嫌だな、と思わず無粋なことを考えてしまいました。

絵では他に春信や池大雅、清方、古径などの作品も美しい。

また会場では、白檀、伽羅などいくつかの香りを実際に嗅ぐこともでき、会場全体が何とはなしに良い香りに包まれていて、気持ちよかった。
こうしてみていると、西洋の絵に香りを題材にした絵なんてあまりないな、と思った。香水、と言うと西洋文化のようで、香というと日本のもの、と言う不思議な使い分け。ひょっとすると、現代よりも江戸以前の方が香りは日本人にとって身近なものだったのかもしれない。などと言うことを改めて考えさせてくれた、充実した展覧会。ぜひご覧になって下さい。楽しかったですよ。