1月21日(金) 王子ホール



ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)
アレクサンドル・タロー(ピアノ)

シューマン:民謡風の5つの小品 Op.102
メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ 第1番 変ロ長調 Op.45
********** 休憩 **********
ウェーベルン:3つの小品
ブリテン:チェロ・ソナタ ハ長調 Op.65

アンコール
シューベルト:夜と夢
クライスラー:愛の喜び
ドビュッシー:ソナタ より 第3楽章

ケラスの来日演奏会はここ10年ばかりほぼ毎回聞いているが、前回はカルテットだったのでリサイタルはほぼ2年ぶり。このところ共演も多い気鋭のピアニスト、タローとのデュオというのも期待度大。

今回は『20世紀におけるロマンティシズムへのエコー』と銘打たれた演奏会で、プログラムも前半はロマン派、後半は現代。ウェーベルンとブリテンがロマン派となんの関係が?と素人は考えてしまうが、その解釈はプログラムに載っていたケラスの言葉をお読みいただきたいが、私などはそういう難しいことはあまり考えず(考えられず、かな)、一つ一つの曲の演奏を楽しむことに専念。

前半のロマン派2曲は、実はあまりよく知らない曲。シューマンのは短い組曲で、民謡風とは言いながら、素朴な感じはあまりしなくて、それはケラスの演奏のせいかもしれないけど、機知に富んだ面白い曲。
メンデルスゾーンのソナタも、有名なヴァイオリン協奏曲などに比べると、ロマンチシズム溢れると言うより、ベートーヴェンのソナタを思わせるような構築的なところもあったり、深い思索にふけるようなところもあったり、とただ綺麗なメロディをうっとり聴かせる曲ではない。
いや、これはやっぱりケラスとタローの解釈に与るところも多いのじゃないかしら。もしこれがたとえばマイスキーだったら、きっともっとしみじみ歌って聴かせてくれるのじゃないのかな。
ケラスとタローの二人は、ただメロディの美しさに耽溺するような演奏はしない。そう言うのとは一歩離れた、もっと知的でクールなアプローチに感じられた。現代的と言っても良いのかも。50年前にこういう演奏したら、ロマン派じゃないってけなされたかもね。もちろん、美しくないということじゃない。ケラスの特質である、繊細で透明感のある音色と自由闊達な表現が、生き生きとした、清涼でたおやかな音楽を作って聴かせた。

そういう二人なので、やっぱりどちらかというと後半の2曲の方が個人的にははまる感じがした。
ウェーベルンなんて、これって音楽~!?と思うくらい「あっ」という間に終わっちゃう曲。初めて聴いた時はびっくりしたな。ま、ジョン・ケージよりはましだけど……。
この日、二人は次のブリテンへ間を開けずに演奏したので、なんだかウェーベルンがブリテンの序曲みたいで面白かった。気がついたらブリテンが始まってた、みたいな。ブリテンも作曲当時は斬新だったろうけれど、50年もたつと立派な古典。バルトークもそう。慣れるって凄いな。
いわゆる現代奏法もあって難曲だろうと思うけど、二人は実にさらっと弾いてのける。緊張感は保ちながらも、本当に楽しそう。

ケラスにいつも感じるのは、卓越した技術に裏付けされた何にも囚われない自由さと強靱な精神力。でもその強靱さは、何かをねじ伏せるというのではなく、まるで柳のように全てを受け止めて受け流していく柔らかな強さ。だから聴いていてとても気持ちが良いのかな。

次の来日はまたアルカント・カルテットらしいが、ソロでは今度は何をやってくれるか今から楽しみ。

アンコールでは最後にドビュッシーのソナタの第3楽章。二人での録音もあり、生で聴くことができて嬉しかった。


Debussy, Poulenc: Queyras Tharaud violoncelle piano

  • アーティスト: Claude Debussy,Francis Poulenc,Alexandre Tharaud
  • 出版社/メーカー: Harmonia Mundi Fr.
  • 発売日: 2008/10/14
  • メディア: CD



シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ

  • アーティスト: ケラス(ジャン=ギアン),シューベルト,ベルク,ベルク(ゴロー),ウェーベルン,タロー(アレクサンドル)
  • 出版社/メーカー: キング・インターナショナル
  • 発売日: 2007/06/27
  • メディア: CD