11月8日(月) サントリー・ホール



プログラム
オール・ベートーヴェン

ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 作品12-2
Sonata for Violin and Piano No.2 in A major op.12-2

ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 作品24「春」
Sonata for Violin and Piano No.5 in F major op.24 “Spring”

・・・・・・・・・休憩・・・・・・・・・・・・・・・・

ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
Sonata for Violin and Piano No.9 in A major op.47 “Kreutzer”

アンコール
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第8番 第2楽章

ピアノ:ジャンルカ・カシオーリ Gianluca Cascioli

約2年ぶりの紗矢香ちゃんのリサイタル。これまで割と近現代ものに力を入れていたので、待望のベートーヴェンと言うことで大いに期待して出かけた。
この日は綺麗な水色のドレスに、珍しく髪を後ろでポニーテールのようにしていた。

紗矢香ちゃんに限らず、今時の若いヴァイオリニストにとってベートーヴェンのソナタなんて、技術的には全然むずかしくはないだろう。では、その決してテクニックでねじ伏せる曲ではないもので、何を聞かせるのか。

この日取りあげた3曲とも、紗矢香ちゃんとカシオーリは比較的ゆっくりめのテンポを取って、情感たっぷりに美しい音楽を紡ぎ出した。ベートーヴェンのソナタって、こんなにきれいな曲だったか、と思うくらいまるで天上の音楽を思わせるようなそれはそれは美しい音楽。ベートーヴェンと言えば、やたら情熱だとか意志の強さだとか、そういうなんだか男臭い音楽を思い浮かべるステレオタイプに挑戦するかのように、いえいえ、ベートーヴェンだってこんなにメロディアスで優美な面があるんですよ、とミューズが微笑みかけているような。
全く、聞き惚れるというのはこういうことかな、と思うくらいうっとりとするような美しさ。

でもね。なんだかやっぱり物足りないのですよ。
たとえステレオタイプでも、ベートーヴェンはただひたすら美しいで終わる音楽じゃないんじゃないか。たとえざらりと引っかかるとしても、ただするすると流れていくのではなく、何かをアピールする力。
少なくとも私はそういう「何か」をベートーヴェンには求めてしまう。
もちろん、紗矢香ちゃんほどの音楽家のことだから、そういうものを表現できないのではなく、あくまで今自分が思うベートーヴェン像を造り出したのだろうけれど、こちらは聴いていて最後までわずかな不満が消えなかった。

これまでの、ちょっと鬼気迫るような集中力と気迫で圧倒するような演奏から、ある意味では変身を遂げたかのような紗矢香ちゃんだが、美しさと引き替えに自由闊達な伸びやかさが影を潜めてしまったとしたら、それももったいないと思う。
10代でデビューして早10年あまり、過渡期なのかな、と思ったりもした。まだまだ音楽家としての道のりは長い。次にどんな演奏を聴かせてくれるか、楽しみであることは確か。