7月5日 新国立美術館
http://orsay.exhn.jp/index.html



先日のボストン美術館展に続いての大型企画展。出品数ではこちらが大いに上回るし、なんと言っても印象派、ポスト印象派という日本でも大人気の作家の絵がそろうという点で、こちらのほうが人気が高そう。この日は平日の午後だったのでそこそこの込み具合だったが、土日などは大変なんだろうな。

従来「後期印象派」と呼び習わされていたが、近頃は「ポスト印象派」と呼ぶそうである。モネなどの印象派の影響を受けながら、そこから離れ別の形での有り様を追求して行った画家たちということなのだろうが、一くくりにするのは難しい。ともかく、19世紀末から20世紀初頭にかけての、抽象画一歩手前までの絵画展。

「第1章 1886年 最後の印象派」には、モネやドガの絵が並ぶいわばイントロダクション。

1枚目のドガの踊り子は好きなシリーズ。「階段を上がる踊り子」。ドガの絵って、対象を見る目がクール。そこがルノワールと全然違う。


モネも有名な絵がたくさん。中で気に入ったのはこれ。
「ノルウェー型の舟で」
はじめて見た気がする。後年の睡蓮の池のシリーズの先駆けのような雰囲気。実物は緑が深くてきれいだった。まるで鏡のように映る水面の輝きが見事。

「第2章 スーラと新印象主義」は、スーラ、シニャックなど点描画を一同に。いつも思うがこの手の絵は描くのに根気が要るだろうなあ。どれも色がとてもきれいだが、点描という性格上か躍動感に欠ける。


シニャック「マルセイユ港の入り口」
鮮やかな色使いは、フォーヴの一歩手前。マティスはシニャックの下でフォーヴィズムのきっかけを掴んだ。

「第3章 セザンヌとセザンヌ主義」
ポスト印象派を代表するセザンヌ。風景画も良いし、人物画も独特の趣があっていいけどやっぱりりんごの静物画が好き。

「台所のテーブル(篭のある静物)」
よく見ると、上から見たつぼ、横から見た篭、と視点がいろいろなのに、不思議と調和が取れている。セザンヌ・マジック。

「第4章 トゥールーズ=ロートレック」
ロートレックの絵はあまりにオリジナルでほかの誰とも一緒にグループ分けできない気がする。だからか、ここでも一人扱い。ポスターなど版画が多いロートレックだが、今回は貴重な油彩画が数点。

「黒いボアの女」
スケッチのような荒いタッチが印象的。

「第5章 ゴッホとゴーギャン」
まったく違う二人なのに、ほんの一時期一緒に暮らしたというだけで常にセット扱い(笑)。


ゴッホ「アニエールのレストラン・ド・ラ・シレーヌ」
まだパリにいた時代の、印象派の影響が強い作品。まるでユトリロのような、穏やかな色使いがゴッホには珍しいかも。しかしタッチにはやはりゴッホらしさが。でも多分、本人は気に入ってなかっただろう作品。

私はゴッホよりゴーギャンが好き。ポン・タヴェン時代も良いがやっぱりタヒチに行ってからの強烈な絵が好き。でも今回はタヒチ時代の絵が1枚しかなくてとても残念だった。

「タヒチの女たち」
タヒチ時代の絵の中では穏やかなほう。不気味な小道具(?)もないし、呪術性も感じられない、素直な人物画で、なんだかちょっと物足りない気も。ま、ゴーギャンは去年いっぱい観たからいいか。

「第6章 ポン=タヴェン派」
「派」というには微妙な、ゆるい関係のグループ。ゴーギャンに影響を受けている。

ベルナール「水浴の女たちと赤い雌牛」
ゴーギャンよりセザンヌに近い雰囲気。雌牛はシャガールを思い出させる。

「第7章 ナビ派」
ナビ派も、特徴を簡単に説明できない。装飾的で平坦な、でも色彩感あふれる絵が多い。ドニもヴュイヤールも好きな画家たち。


ドニ「ミューズたち」
アール・ヌーヴォーのデザインのような木の葉と地面。主題なのに存在感の薄い人物たち。まるで教会の装飾パネルのような、静かな絵。


ヴァロットン「ボール」
ボールを追いかける女の子(と思ったけど、解説には子供としか書いてない。男の子もあり?)と、遠くに二人の女性。でも主題は風景なのかしら。なんだか不思議な、時間が止まったような絵に感じられるのは写真の影響か。

「第8章 内面への眼差し」
「象徴主義」でくくらずにこういう章立てをしたのは、やや広い範囲の画家を入れたかったからか。ルドンとモローを普通は一緒にしないもんね。


モロー「オルフェウス」
1865年の作品だから、この展覧会では一番古いほう。ポスト印象派展に入れるのはいささかつらい気もする。実際、会場ではひときわ異彩を放っていた気がする。絵の技量という点では本展中ピカ一の作品で、衣装の縫い取りなどの表現の美しさといったらため息が出そうなほど。


ルドン「キャリバンの眠り」
ルドン作品におじなじみのモチーフがちりばめられた不思議な絵。ルドンって、よくわかんないけど色がきれいなので結構好き。

「第9章 アンリ・ルソー」
ルソーも、ほかの誰とも一緒にできない。奇跡のように現れて屹立している画家。

チラシの絵が「蛇使いの女」本展最大の呼び物がこれ。本邦初公開。これがまったくの想像の産物というから驚き。緑のハーモニーがそれは深く美しい。耳を澄ますと鳥の鳴き声と女の吹く笛の音が聞こえてきそう。

「第10章 装飾の勝利」
カンヴァスから装飾パネルへ。ナビ派の多くが室内装飾を手がけた。ここではその一端を見せる。もともとデザイン画的だったドニなどは壁面を飾っても違和感がない。

ヴュイヤール「公園」。連作パネルからなる作品。一枚ごとの絵がつながっている様子は屏風絵のようでもある。

その他全部で115点。よく持って来たね、という傑作ばかりの展覧会。今オルセーはどうなっちゃってるのか心配になるくらい。改装中なんだろうね。
これらはほぼ全部、19世紀末から20世紀初頭にかけての20年くらいの作品。このたった20年余りの間にこれだけの多種多様な様式の絵がほぼ同時に、それもフランスの中だけでも存在したというのは驚異的なこと。そのほんの100年前の様式の一律さを思えば奇跡としか思えない発展の仕方。
「ポスト印象派」というのはいわば世代であって流派ではないと改めて思い知る充実の展覧会。混んでいてもぜひお見逃しなく。

絵葉書を買おうかと思ったけど1枚150円。高い!なので珍しく図録を買いました。絵がちょっとゆがんでいるのは図録をスキャンしたからです。お許しください。