4月25日
東京国立博物館平成館
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細川家というと、熊本の大名家、元首相の細川護熙氏が現当主、という名門、そんな程度の認識しかなかったが、ルーツは鎌倉時代の御家人にまでさかのぼれると言うから本当に名家中の名家なんですね。戦国時代に成り上がったそこら辺の大名とは違うのです。そんなお家だからお宝も半端じゃない。その中から選りすぐりの名品を見せてくれるのがこの展覧会。

展示は大きく二部に分かれていて、第一部が「武家の伝統-細川家の歴史と美術」として、代々伝わる名品を、第二部は「美へのまなざし-護立コレクションを中心に」として近世細川家の16代当主・細川護立(もりたつ)(護熙氏のおじいさん)が収集した美術品を展示。

第一部でまず目に付くのは、甲冑の類。さすがお武家。鎧兜ってあまり興味がなくて、これまでそれほど関心をもって見たことがなかったんですが、今回改めてしげしげと眺めて、本来実用の武具にこんな風に細かい装飾をしたり、色糸で縫い取りをしたり、はたまた一際めだつような兜飾りをつけたり、という昔の武士の美意識というか心意気と言うかの面白さに感心するような呆れるような。だって、一つ間違えば死に装束なのよ。実用を考えれば動きやすさが最重視されそうなのに、全然そう言うこと頭になさそう。中にはものすごく長い山羊の角みたいな飾りの付いた兜もあって、ちょっと笑ってしまいそうだった。

黒糸威二枚胴具足
でもそんなものだからこそこうして美術品として鑑賞されているわけね。
さすがに大名の御大将が身に着けただけある、細工の素晴らしいものがたくさん。
ひるがえって現代の軍隊の制服には、そう言う個性を競うという発想がもうないのは、兵士がただの駒としてしか扱われていない証拠なのかも。「やあ、やあ、我こそは」と名乗ってこその、華麗な戦装束だものね。

武具の次は、平時の大名のたしなみとして、茶道、能、和歌などに関するもの。特に茶道では千利休ゆかりの品を始とする茶碗や茶入の名品が並び圧巻。
唐物茶入 利休ふくら

能のお面なども案外目にする機会は少ないので興味深かった。
また和歌では、「古今伝授」という儀式に関する一連の展示があり、難しいことはよく解らなかったが、古今集のいろんな解釈などを相伝として弟子などに伝えていくという行事というか約束事というかがあって、その時の決まり事や使う道具などを記したもの。そもそも「古今伝授」などという言葉も初めて聞いたので、一種の学問の一派がそう言う形で綿々と伝わってきたことに感心した。現在はどうなっているのだろう。

また、細川家の歴史といえば、ガラシャ夫人の悲劇が有名だが、そのガラシャや信長、光秀などの書状も展示されていて、歴史好きには興味深いだろう。

第二部の「護立コレクション」は、江戸時代の禅僧白隠の作品から始まる。この16代目の護立氏が初めて美術品に興味を持ったのが白隠の書画だったというのだが、それがまだ10代の時と言うからその感覚のユニークさが推し量られる。
白隠「乞食大燈像」

さらにコレクションは護立の同時代の、大観や春草など日本美術家の作品、さらに数は少ないがマティス、セザンヌなどの西洋絵画にも広がる。これら日本画家にとっては護立はコレクターと言うよりパトロンに近かったのかも。
菱田春草「黒き猫」

そしてコレクションは東洋美術にも広がって、唐三彩を始とする中国の陶磁器や、中国、インドなどの仏像もたくさん。個人的には、仏像を美術品としてコレクションすることに反発を覚えるので(たとえ公立の美術館であっても)、こういう場で仏様を拝むのはどうかと思うが、海を越えてはるばるやってきた仏像はそれぞれの時代と国の特徴があって美しい。

今の当主の護熙さんは政治家を引退して陶芸家になられたようだが、美術品の収集はなさっていないのかしら。それとももう今の時代では、いくらもとはお大名家でもこんなコレクションをする財力はないのかな。

なおこれらのコレクションは、普段は目白台の永青文庫で公開されているそう。一度行ってみたい。