4月9日 東京文化会館大ホール



去年までは「東京オペラの森」の名を冠して開催されていた音楽祭。今年から小澤征爾が降りてオペラ公演がなくなり(ただし、演奏会形式による「パルシファル」の上演はあり)、さすがにそのままの名前は使えないと思ったのか、「東京・春・音楽祭」として、下に小文字で「東京オペラの森2010」と言う名称になった。

一連の演奏会の中でもメインと言えそうなのが、この「カルミナ・ブラーナ」。なにしろムーティが振るんだもの!

指揮:リッカルド・ムーティ
ソプラノ:デジレ・ランカトーレ
カウンター・テナー:マックス・エマヌエル・ツェンチッチ
バリトン:リュドヴィク・テジエ
管弦楽:東京春祭特別オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ

■曲目
モーツァルト:交響曲第35番 二長調 K.385 《ハフナー》
オルフ:世俗カンタータ《カルミナ・ブラーナ》(字幕付)

ムーティは過去2回この音楽祭に出演している。1回目はヴェルディの「レクイエム」、2回目はロッシーニ「スターバト・マーテル」で。ロッシーニの方は聴いたが、さすがスカラ座で一時代を築いたマエストロ、声とオーケストラの扱いを熟知しているという印象だった。そして今回は待望の「カルミナ・ブラーナ」。これが聴かずにいられようか!

オーケストラはこの音楽祭のために集まった、N響を初めとする在京オケのメンバーを中心とした特別オーケストラ。コンマスには堀正文さん、ヴィオラに店村眞積さん、チェロには藤森亮一さんと言ったそうそうたる顔ぶれが並んでいた。

1曲目のモーツァルトでは、初日の初めということもあってかまだ何となく手探り感があり、モーツァルトらしい透明感のある音色や天上の美しさを感じさせる軽やかさにはいたらず、ややもどかしい。ムーティでモーツァルトと来れば、しかたないとは言え、これがウィーン・フィルだったら、などとチラと思う。やっぱり寄せ集めのオケでモーツァルトは、いかに個々のメンバーのレベルが高くても難しいものだ。

休憩を挟んで、後半が眼目の「カルミナ・ブラーナ」。実は生で聴くのは初めて。今回は字幕付きだったのでわかりやすくてよかった。
1937年初演のこの曲は合唱を伴うオーケストラの曲としては20世紀最大のヒット曲の一つ。
とにかく最初から最後まで、ベタだが「格好いい!」曲なのである。冒頭からいきなりトゥッティで力強く始まる「おお、運命の女神よ」の度肝を抜かれるような迫力といったら!その後も次々に、時には独唱で、時には男声だけで、そして児童合唱で、と手を替え品を替えつつも絢爛たる絵巻物のように紡ぎ出される音楽の豊穣さに、まるでめまいを覚えるような感覚がして、ひたすら酔いしれた1時間だった。

ムーティはいつもながらの華麗な指揮振りだったが、この曲のダイナミックさを表現して、指揮台の上で跳んだりはねたり(?)普段よりずっと大きな動き。いや~、ムーティの指揮って本当に惚れ惚れする格好良さ。この大がかりな曲を、大人数のオケと合唱、独唱者を操る求心力の圧倒的な強さにはいまさらながら脱帽する。

オーケストラも、モーツァルトと違ってのびのびと力強い演奏。管楽器のソリストもなかなかの名演。
そして何より東京オペラシンガーズの水準の高さには感心した。前回のロッシーニも素晴らしかったが、日本の合唱団の最高峰の一つとして、この難曲をこなした実力には拍手。前回同様、合唱指導のガッビアーニ氏の力もすごいのだろう。
児童合唱の東京少年少女合唱隊も、ラテン語(たぶん)の歌詞なのにしっかり歌っていて、すごいな~。

それにしても、東京でムーティの「カルミナ・ブラーナ」が聴けるとは思わなかった。ほんとに幸せ。
ムーティは今シーズンからシカゴ響の音楽監督に就任だとか。いまいちピンと来ない組み合わせだが今度はシカゴ響と来日するだろうか。ぜひ聴いてみたい。