4月5日



平日だがこの日は団体が入っているようでほぼ満席。やっぱりこれくらい客席が埋まってないと、やる人も張り合いないよね~。



前日に引き続き、「妹背山婦女庭訓」第一部
 初 段 小松原の段 南都・つばさ・芳穂・文字栄・始・希・團吾
      蝦夷子館の段 津國・清馗、松香・宗助
 二段目 猿沢池の段 三輪・喜一朗
 三段目 太宰館の段 英・団七
      妹山背山の段 住・文字久・富助・錦糸、綱・呂勢・清治・清二郎・寛太郎(琴)
紋寿の久我之助、簑助の雛鳥、玉女の大判事清澄、文雀の後室定高

いや、凄かった。なにがって、山の段です。そこまでのはすべて、この山の段へ持っていくための序章に過ぎない。などと言うと、前段に出ていた人に失礼だけど、でも本当に山の段を見た後ではその前のことなんて完全にかすんでしまった。幕見でもこの段だけでも観に行くべきです。伊達に人間国宝5人が揃って出てるわけじゃないわ。と言っても清治は前半だけなので、同時に5人は出ないんだけど。

前に東京でやった時は確か太夫は妹山背山一人ずつだったが今回は二人ずつ。妹山が綱と呂勢に清治、背山が住と文字久。なんて贅沢。観る前は、語り口から言うと反対の方が向いてる気がしていたけれど、豪快な綱さんが定高を、情のある住さんが清澄を語ることでかえってくっきりと情景が浮かび上がってくる気がした。
そこに若い呂勢が雛鳥を、文字久が久我之助を語ることで華やぎと初々しさが加わって、絶妙なバランスが生じていたように思う。
でも呂勢さんと文字久さんは緊張でしょうねえ。師匠の隣で大役だもの。

人形ではなんと言っても文雀の定高が、いつもながら毅然とした武家の後室の強さと、母親としての情のある様子を無駄のない品のある動きで魅せてさすがに立派。文雀さんの武家の女役、ほんとに芯の強そうな、それでいて内に秘めた優しさとが見えて素敵。

簑助の雛鳥も、美しく可憐なお姫様の様子が何とも言えない風情で、川を渡って久我之助に会いたいと思わず身を乗り出す様や、母に入内するよう言われて悲しむ様など、頭はもちろん手先まですべてに感情が表れるようで本当に人間より生き生きとしている。恋する女を遣ったら簑助さんには生身の役者でもかなわないんじゃないかしら。

久我之助は紋寿で、あまり動きがなくて特に腹を切ってからじっとしている時間が長いしんどい役だが、さすがに気品のある美男子の風情があり立派。

清澄は玉女だが、玉女は動きの大きい豪快な役は上手いが、こういう腹で見せる老け役はまだまだ難しそう。じっとしていて大きさを見せるのはそれはそれは大変なことなのだろう。これから持ち役になるのだろうから、頑張っていただきたい。

しかしこういう時は、玉男さんはともかく、文吾さんがいてくれたら、と思わずにいられない。玉男さんと玉女さんを繋ぐ世代の立ち役がいないんだもの。今の人形遣いは女方の方はかなり充実しているけど、立役の層の薄いのが心配。

後半、綱さんと住さんの掛け合いになってからはもう泣ける泣ける。文楽でこんなにぼろ泣きしたのは久しぶりって言うくらい泣きました。「命もちりぢり」「日もちりぢり」の場面なんて大泣き。よく書けてるよねえ。
特に住さんの、息子を思い、雛鳥を嫁と思う情の深さ、哀れさがひしひしと伝わってきてほんとうに素晴らしかった。
綱さんも、すっかりお元気なようで安心。来年の襲名に向けて頑張っていただきたいです。

この段は三味線も両山で風が違うのだけれど、錦糸が「染太夫風」で豪快に、清治と清二郎が「春太夫風」で華やかにと、違いを聞かせてこれも面白かった。

ほんとうに素晴らしくて見応えのある舞台でした。遠征しても行く価値大いに有りです。

ところで、文楽のプログラムは東西で中身が違うが、私は大阪の文楽劇場のものの方が面白くて解説も解りやすくて良いと思う。東京のはなんだか教科書みたいで堅苦しいのよね。もうちょっと何とかならないのかな。大阪のは今回だと簑助さんのインタビューなんかも載っていて、読むところが多いんだけどなあ。