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三月大歌舞伎 夜の部 [舞台]

歌舞伎座

夜の部は前半はにざ玉コンビ、後半は若手で新派の演目、と昼とはガラッと違った狂言立て。

一、於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)
小梅莨屋の場
瓦町油屋の場
土手のお六   玉三郎
山家屋清兵衛  錦之助
髪結亀吉    坂東亀蔵
庵崎久作    橘三郎
油屋太郎七   彦三郎
鬼門の喜兵衛  仁左衛門

普通はお染の七役として上演するもののうち、お六と喜兵衛の場だけを上演する変則的なもの。
玉三郎の伝法な台詞が面白いお六と、悪党ながら粋な男の仁左衛門喜兵衛のコンビが息もぴったり。莨屋の場ではカミソリを研ぐ喜兵衛の凄味が素晴らしく息をのむ。油屋では、自信満々でゆすりに来たのが、嘘がばれてだんだんしぼんでいく二人がおかしみがあって面白い。
とはいえ、やはり二場だけ抜き出すのはいささか無理があって、ストーリーとしては何が何だか、になってしまったのは否めない。

錦之助がこういう捌き役的な役って珍しい気がするが、そつなくこなしていた。それだけ年取ったってことか。
彦三郎が実直な商人。こちらも珍しいかも。
橘三郎が朴訥とした味を見せる。

二、神田祭(かんだまつり)
鳶頭  仁左衛門
芸者  玉三郎
粋でいい男で格好いい仁左衛門と、あだでいい女で綺麗な玉三郎が、ひたすらイチャイチャデレデレしている10分間。まともに見ていると馬鹿馬鹿しい位なんだが、これがなんとも幸せな気分にさせてくれるんだから、舞台って不思議だ。50年あまり共演を重ねた来たお二人にしか出せない、親密さや愛しさが溢れていた。そしてまあ二人とも若々しくて綺麗なことといったら。何か奇跡を見ているような気さえしてしまった。何なのあれ。化け物なの?(笑)

三、滝の白糸(たきのしらいと)
滝の白糸   壱太郎
村越欣弥   松也
南京寅吉   彦三郎
松三郎    坂東亀蔵
桔梗     米吉
裁判長    吉之丞
郵便配達夫  寿治郎
お辰     歌女之丞
おえつ    吉弥
青柳太吉   秀調
春平     歌六

玉三郎が新派で手がけてきた演目を壱太郎にやらせる。
壱君はとっても頑張ってた。玉様の特訓があったのか、台詞回しもよく勉強していて。序盤の華のある人気太夫ぶりが艶やかで、後半の影のある様子との差に月日が感じられる。欣弥に対する思いも酔狂から始まったものが思いの外に本気で思い詰めていった切なさが見ていて辛い。初めて見たので、あんな終わり方をするとは知らず、呆然。

松也も真っ直ぐな好青年ぶりがよく似合う。終盤の長台詞もよくこなした。感情を抑え、理性的にしかし諄々と道を説く欣弥の台詞に、思いがけない再会への揺れる思いと辛さが溢れる。

彦三郎が憎たらしい。声のいい人が悪役すると圧が強い。
そしてなんといっても歌六が上手い。一言一言に親代わりとして接する白糸への情がこもる。ほんとに何やっても上手い人だな。

古典歌舞伎の世界観の中だと、同じような事件でも大岡裁きみたいになって大団円とは行かずともあんな終わり方にはならないだろう。でも明治以降だとそうはいかない。でも私は歌舞伎を観るときは法やリアルな倫理観などぶっ飛んでいるので、ああいうのを見せられて歌舞伎見たって気にはなれない。

欣弥にとって白糸は女なのかただの恩人なのか、そこがいまいちわからない。欣弥も考えようによっては悪い女につかまったとも言えるのかもしれないなぁ。残された母親が気の毒。

壱君松也歌六さんと揃うんなら、野崎村とか見たかった。米吉君にお染やらせて。
壱君も松也も歌六さんも彦三さんもみんな良いんだよ、とっても。でもこの演目をなぜ歌舞伎でやらないといけないのか、誰か教えて。新派が大事にしていけばいいんじゃないの?

正直、せっかくの壱太郎の歌舞伎座での初主演がこれだったというのは残念至極。
なんだか、玉三郎が自分が開いた道を壱太郎でも誰でも良いからつないでほしくてやらせたみたいに感じられて、芝居の終わり方共々後味が悪かった。

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