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壽 初春大歌舞伎 夜の部 [舞台]

歌舞伎座
1801歌舞伎座勧進帳.jpg
一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
角力場
濡髪長五郎  芝翫
藤屋吾妻   七之助
仲居おたけ  宗之助
茶亭金平   錦吾
山崎屋与五郎/放駒長吉  愛之助

芝翫の濡髪はそこそこ貫目もあり押し出しも立派な大関。でもなんか暗い。少年の放駒に対する大人の余裕という対比まで行かないからかもしれないが。ちょっと八百長のフィクサーみたいで、ううん?と思ってしまった。
愛之助は与五郎はじゃらじゃらして情けないけどお育ちの良いぼんぼんの雰囲気がよく出た。
長吉の方も世間知らずな若者の一本気な真っ直ぐさがあってなかなか。
七之助がこの吾妻に出るのはもったいないくらいだが、綺麗で引っ張りだこの人気ある遊女の様子がぴったり。

二・口上
襲名の三人を含め22人が並ぶ。仕切りは藤十郎。もはや口上芸と言っても良い、独自の厳かさ。いつものように左團次が笑いを取った以外は、人数が多くて一人が短めなせいかわりと真面目。

三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶 染五郎改め幸四郎
源義経   金太郎改め染五郎
亀井六郎  鴈治郎
片岡八郎  芝翫
駿河次郎  愛之助
常陸坊海尊  歌六
富樫左衛門  吉右衛門
     
今月いちばんの見もの。
主役はもちろん新幸四郎の弁慶なのだが、その前に立ちはだかる叔父吉右衛門の富樫がすさまじい。最初の名乗りからして朗々と謡う台詞に酔う。巌の如くそびえ立つ関守。力で押し通すのは不可能と思わせる。
義経一行と対峙しても、頑として通さない、一分の隙も見せない鉄壁の守り。
山伏問答の口跡のキレの良さ見事さは比類ない。畳みかけるように弁慶を詰問する突っ込みの鋭さ、何も見逃すまいとする視線の厳しさ。そしてさらに強力を不審と見て引き留める台詞のの裂帛の気迫。その上で、全てのみ込んで見逃す情の篤さ。
弁慶が義経を打擲する時、富樫が刹那顔を背ける。見るに堪えないというように。この瞬間富樫の心が動いたのか。岩のように堅かった富樫の心に穴が空いた瞬間を見たようで、こちらも目を逸らしたくなる。義経より弁慶より、心痛めたのは富樫なのだと。「もはや折檻したもうな」でぼろぼろ泣いてしまった。こんなの初めて。

幸四郎を継いだ甥に、彼の祖父、自分の実父初代白鸚の富樫を全力で見せる。ただの叔父甥の絆だけではなく、歌舞伎の将来を託そうとする吉右衛門の強い思いがひしひしと溢れていた。「どうだ、俺を超えていけ」と言わんばかりの。その愛に涙。

そんな最高の富樫に胸を借りる新幸四郎の弁慶は、二度目。月初はなんだか力が入りすぎて逆に雑に感じられるところがあったりして、初演の時の方が好きだなあ、なんて思ったが、叔父の感化を受けてか日増しに良くなった。とにかく叔父に必死で食らいついていこうという姿勢が良い。山伏問答も富樫の口跡の良さにどれほど引っ張り上げてもらったか。全身全霊で義経を守ろうとする強い意志が見えた。もちろんまだ完成形ではない。これから何度もやって自分の弁慶を作っていくだろう、その礎となる弁慶が見えた気がする。

新染五郎の義経は、変声期で発声はやや不安定なのが惜しいが、とにかく美しく、品がある。父と大叔父の大舞台でとにかく行儀良く真っ直ぐに務めていて、先が楽しみ。

 上 相生獅子(あいおいじし)
四、下 三人形(みつにんぎょう)
〈相生獅子〉
姫  扇雀
姫  孝太郎

〈三人形〉
傾城  雀右衛門
若衆  鴈治郎
奴   又五郎

勧進帳で放心してしまって、なんだかぼやーっと見てしまった踊り二題。出演者の方には申し訳ない気持ち。
相生獅子の方は、なんだか久しぶりに綺麗な扇雀見たな~、と言う気がしたがどうだっけ。ツンとして気位の高そうな姫。
一方の孝太郎の方はおっとりと優しそう。でも扇の扱いが下手。もうちょっと稽古して。

三人形は、え、がんじろはんが若衆なのか、と失礼にも驚いてしまったのはともかく、傾城の雀右衛門がたおやかで美しい。ほんとにこの人は襲名以降どんどん綺麗になってきたなあ。
奴の又五郎が切れの良い踊り。足拍子も面白い。
鴈治郞もニンではなさそうだがきちんと行儀良く。
相生獅子の二人も、三人形の三人も行儀良くきちんと踊っていてそれなりに良かったのだけど、あの勧進帳の後では観客の集中力も切れていて、なんだか気の毒だった。どうせだったら「勢獅子」みたいなわあっと派手な踊りで若手も出して盛り上げた方が、打ち出しには良かったのでは?と思った。


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