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墨と金 狩野派の絵画展 [美術]

根津美術館
http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html
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この頃、狩野派の展覧会が多いような気がするが偶然か。室町から江戸時代まで権力者の庇護を受けて威勢を振るった狩野派。永徳こそないものの、元信、探幽、山楽ら有力者の作品を「墨(山水画)」「金(金箔を用いた障壁画)」と言う視点で見せる。

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養蚕機織図屏風 伝狩野元信筆
狩野派二代目の元信については、去年サントリー美術館で展覧会があって初めてちゃんと見た。絵画の技法を整理して弟子にもわかりやすく体系化し、狩野派が工房として大量生産できる基礎を築いた。

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両帝図屏風 狩野探幽筆
狩野派で金を使い出したのは三代永徳ではないかと思うが、江戸時代に入って幕府に仕えた探幽も豪華で、題材もいかにも為政者が好みそうな作品が多い。

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梟鶏図 狩野山雪筆
一方、京に残った京狩野派は、また独自の画風を発展させる。元信の弟子筋となる山楽山雪らがその代表。この山雪のは遊び心たっぷりの一枚。特にフクロウの表情がなんとも言えず可愛い。

超有名作があるわけではないが、狩野派の実力を堪能できる。

また、2階展示室では新春恒例の「百椿図」が展示され、「墨と金」とは打って変わって美しい色彩の様々な椿の絵を楽しめる。

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「国宝雪松図と花鳥」展 [美術]

三井記念美術館
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/
毎年この時期に展示される応挙の雪松図屏風と合わせての展覧会、今年は花鳥図。

まずは茶道具。牡丹の浮き彫りの青磁の花入れ、仁清の鶏の形の香合、銘が鵺という赤楽茶碗、などが並ぶ。

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仁清
色絵鶏香合
仁清らしい、色鮮やかで可愛い香合。

絵画では伝牧谿作の蓮燕図が当館の花鳥図ではいちばん古いとか。今回の目玉としては渡辺始興の鳥類真写図巻約17メートルを全図展示。まさに図鑑の写実的な描写の細かさに舌を巻く。

個人的に目を奪われたのは沈南蘋の花鳥図。鳥や花の清冽な描写が実に美しい。
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「松樹双鶴図」(花鳥動物図の内)

工芸品ではこういうのも。
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柴田是真作
「稲菊蒔絵鶴卵盃」1対 
鶴の卵の殻のうち側には金を、外側に蒔絵を施したもの。鶴はおめでたい鳥だし、なんとも品がよくて美しい。
この作品の他にも鳥の卵を加工したものはあって、鶴の他に孔雀の卵などもあった。大名家の庭で飼われていた鳥の卵、と言う由来のものも。

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土佐光起
鶉図
小品ながら品の良い一枚。鶉は何故か絵や器の柄に昔からよく描かれる。そんなに色が美しい鳥でもないと思うが。。。

応挙では雪松図屏風の他にこれも。
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蓬莱山・竹鶴図 
さすがの精緻な描写。

さらに面白かったのは、三井家のご当主らの作品もあって、どれも玄人はだし。中には専門家さながら鳥を飼って鳥博士みたいだった人もいたらしい。さすが商人でも名家となると文化水準も高いのね、という感じ。


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世界花小栗判官 [舞台]

国立劇場大劇場
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国立劇場正月公演は恒例の音羽屋。いつも復活狂言だが、今回のは復活と言っても澤瀉屋も取り上げた演目で馴染みはある。

今回は菊五郎は敵役に回って、神出鬼没の大盗賊。スモークと共に登場し、スモークの中スッポンに消えていく。かと思えば、フラッシュばしばしの中花道を引っ込むとか、派手。出番自体はそう多くないがスケールが大きく圧倒的な存在感はさすが。

実質的な主人公、小栗判官は菊之助。序幕では颯爽と荒馬を乗りこなす。貴公子ぶりが映える。後半は、貴種流離譚の典型、苦難の末、病も癒えて元の華やかな姿に戻る。お駒に惚れられるあれこれも、あくまで重宝詮議のためと言うクールさも菊ちゃんならでは。

判官の相手役照手姫には右近が抜擢。艶やかで美しい。

松緑は二幕目だけの出演で、判官の旧臣。照手姫を守るために命を捨てる。忠義心に篤く先月の蘭平ほどではないが大がかりな立ち回りもあって見せる。
この場では梅枝は松緑の女房役。しっとりとした夫思いの女房。
二人の亀蔵がちょっと抜けた悪党コンビで、パンダメークの橘太郎と共に笑いを呼ぶのもこの正月公演ならでは。

三幕目では浪人姿の判官に惚れ込んだ娘お駒と、偶然その家に売られていた照手姫とが恋のさや当て。梅枝が先ほどとは打って変わって情熱的な娘。母が照手姫の乳母だったことがわかり、諦めるよう説得するも受け入れない。母は時蔵。娘への愛情ももちろんありながら、恩と忠義から結果的に娘を手に掛ける悲しさ。この幕が芝居としてはいちばんできている。しかし二役とも殺される梅枝君って可哀想。

終幕では、お駒の祟りで足萎えになり顔も崩れた判官を照手姫が車に乗せて熊野権現にやってきて、風間一味と遭遇、権現の霊験で判官は治り、宝も取り戻し、執権・細川政元らもやってきて風間を包囲して大団円、と言ういつもの終わり方。もちろん手ぬぐい捲きも。治った判官がいきなり衣装も替わってるとか、突っ込みどころも満載だけど、まあ良いか。

序幕から、春夏秋冬と季節を巡る舞台も綺麗。

團蔵や彦・亀兄弟、萬太郎などが出番が少ないのは残念だが、まあ、本格的な義太夫狂言のようなどっしり感はないものの、菊五郎劇団の人材豊富さを改めて感じる芝居。みんな適材適所の活躍で、立ち回りもあり、台詞のお遊びもあり、娯楽性十分でしかも新作のような奇抜さはなく、古典として楽しめる希有な舞台。正月の国立はこれでなきゃ、と言うもはやブランド。
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壽 初春大歌舞伎 昼の部 [舞台]

歌舞伎座

高麗屋三代襲名披露公演の最初の月。
いよいよこの時が来たか、と言う気持ち。特に高麗屋の贔屓ではないけれど、三代揃ってと言うこともあって毎年のようにある襲名でも特別感がある。

一、箱根霊験誓仇討(はこねれいげんちかいのあだうち) 箱根山中施行の場
同   白滝の場
飯沼勝五郎    勘九郎
滝口上野/奴筆助  愛之助
女房初花    七之助
刎川久馬    吉之丞
母早蕨    秀太郎

最初の演目は襲名とは全く関係なし。正月の朝一から幽霊が出てくる仇討ちものって、何だかなあ。しかも仇を討ってめでたしめでたしで終わるならまだしも、これから仇討ちに行くぞー!て幕ってのも欲求不満。
足の悪い夫を車に乗せて妻が引きながら敵を探す。だが敵と出会っても夫が腰が立たないため勝負にならず、それどころか夫と母を守るため妻は連れ去られてしまう。妻は死んで霊魂となって夫らの元へ戻り、その霊験で夫は足が治る。
夫勝五郎の勘九郎が主役と思いきや足が治って立つシーンくらいしか見せ場がない。そこも「立った、立った」ではクララじゃあるまいしと客席で笑いが漏れる。
見せ場が多いのは七之助の妻初花の方で、夫に尽くす優しさと夫と母の命を質に取られての苦悩が見え、幽霊となって(でも夫らは生きてると思ってる)滝壺へ身を投げるまでの所作も見せる。
愛之助が敵と忠僕の二役。敵ではふてぶてしい様子を見せるが、ニンとしては奴の方が合っている。誠実で朴訥とした様子が出てなかなか。
秀太郎が中村屋兄弟と共演とは珍しいが、それほどの見せ場なく、無駄遣い感が。

昔はそれなりに上演された作品らしいが、正直言って、他の演目なかったのかな~。

二、七福神(しちふくじん)
恵比寿  又五郎
弁財天  扇雀
寿老人  彌十郎
福禄寿  門之助
布袋   高麗蔵
毘沙門  芝翫
大黒天  鴈治郎

七人(神)が順番に踊るだけの演目だが、なんとはなしにめでたく楽しい。こっちの方が幕開きによかったのでは。それぞれ拵えがよく似合ってほのぼのだが、なんと言っても大黒天の鴈治郞。福々しいとはこのことかと言うヴィジュアルはもちろん、他の人が踊っているとき後ろで手酌でひたすら飲んでいる様子が、ほんとにお酒入ってるんじゃない?と言う疑惑がもたげるほど。あのフィギュアあったら絶対売れると思う。
     
三、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
車引
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松王丸  染五郎改め幸四郎
梅王丸  勘九郎
桜丸   七之助
杉王丸   廣太郎
金棒引藤内  亀鶴
藤原時平  彌十郎

昼の新幸四郎披露狂言。
車引きは三つ子の若さが出た舞台。悪く言えば勢いでやっている。その分、義太夫狂言の面白さは薄め。とはいえ勘梅王のほとばしる熱量、端正さに悲しみをにじませる七桜、二人をなんとかとどめようとする幸四郎松王のぶつかり合いはワクワクする。彌十郎時平には今ひとつ古怪さがほしい。
幸四郎には悪いが、この場の見ものは勘九郎の梅王丸。久々に見た古典の荒事。力強い六法、三本刀を差してぐっと腰を落とした姿の美しさ。これだこれだ、勘九郎で見たかったのはこれだ、と思って胸が熱くなる。
幸四郎の松王丸も、ここではヒールでふてぶてしさと大きさを見せる。ずっと線が細いと言われ続け、三つ子なら桜丸だってできそうなこの人が、しっかりと松王丸として立っていることに感無量。

寺子屋
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松王丸   幸四郎改め白鸚
武部源蔵  梅玉
千代   魁春
戸浪   雀右衛門
涎くり与太郎   猿之助
百姓  良作   由次郎
同 田右衛門   桂三
同   鍬助   寿猿
同   米八   橘三郎
同   麦六   松之助
同  仙兵衛   寿治郎
同  八百吉   吉之丞
百姓  吾作   東蔵
春藤玄蕃     左團次
園生の前     藤十郎 

花形世代の車引に対し、新白鸚を中心とした寺子屋はまさに大御所が顔を揃えた。
白鸚松王丸は通常運転。この人らしい台詞回しとリアルさ。もうこれはこれでこの人のスタイルとして確立されているのだろう。
魁春の千代が良い。特に戻ってきての源蔵と二人の場面に、まだ吐露できない我が子への思いが滲んで絶品。今時代物の女房をやらせたらこの人がいちばんと改めて思う。
松王と千代の絆が感じられ、「笑うたとよ」「その叔父御に小太郎が」などのやりとりに泣かされた。

梅玉源蔵はやや淡泊な感じもあるが、苦悩と誠実さが見える丁寧な出来。とはいえもう少し心の変化が見えてほしい気も。
雀右衛門戸浪も控えめながら夫を支える。
二人とも新白鸚を立てようとしてるのか、あまり前に出てこない。でも若手じゃあるまいし、ぶつかってこそ大きくなる舞台もあるだろう。

10月の骨折から復帰した猿之助が涎くり与太郎に出て笑いを誘う。
藤十郎が御台所に出るごちそうが襲名ならでは。


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