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国立劇場11月歌舞伎公演 [舞台]

国立劇場大劇場
1711国立.jpg
11月の国立劇場は新歌舞伎の二本立て。それもどちらも何十年ぶりとかの珍しい作品。

山本有三生誕百三十年
山本有三=作
二世尾上松緑=演出
坂崎出羽守(さかざきでわのかみ) 
坂崎出羽守成政:尾上 松 緑
金地院崇伝:市川 左團次
本多平八郎忠利:坂東 亀 蔵
家康の孫娘 千姫:中村 梅 枝
松川源次郎:中村 歌 昇
坂崎の小姓:市村 竹 松
坂崎の小姓:中村 玉太郎
松平の使者:市川 男 寅
三宅惣兵衛:市村 橘太郎
本多佐渡守正信:嵐 橘三郎
南部左門 :中村 松 江
本多上野介正純:河原崎 権十郎
刑部卿の局:市村 萬次郎
徳川家康:中村 梅 玉

焼け落ちる大阪城から千姫を救い出したら褒美に輿入れさせるという家康の言葉を受けて、顔にやけどを負いながら千姫を助け出した出羽守。しかし千姫は出羽守への輿入れを拒み、家康の命を受けた金地院から姫は落髪すると聞かされて出羽守は諦めるが、実は姫は本多平八郎に嫁ぐ。それを知った出羽守は輿入れ行列に切り込み、切腹する。
山本有三作の新歌舞伎。六代目菊五郎が初演、二代目松緑、初代辰之助に受け継がれて、当代の初演。

姫の歓心を買おうとしてもうまくいかず、どんどん負のスパイラルに落ちていく松緑君、無骨一辺倒な男の不器用さが可哀想で見ているのが辛いほど。
集中力がすさまじいのは最後の館の場面。ピリピリした空気に舞台上の家臣だけでなく客席まで飲み込まれていく。家臣の気遣いさえも出羽守には慰めどころか屈辱だったろう。こらえにこらえたものが最後に爆発して行列に切り込むのが、あらすじ読んでわかっていても「止めて、止めて」と思ってしまう。。

もし出羽守がやけどしなかったら?もしあの船に本多平八郎が乗らなかったら?千姫は黙って出羽守に輿入れしただろうか。なんて考えてしまう。様々な不運が出羽を襲う。家臣のことも思って耐えに耐えた気持ちが最後に切れる切なさに胸が塞ぐ。死を前に歌昇君源六への温かい言葉がかえって辛い。

松緑はそういう出羽守の昏い内にこもった情念を描き出してはまり役。見るのが辛い、でもまたやってほしい、と矛盾した感想を持ってしまう。新しい当たり役が加わったと思う。

出羽守可哀想だけど、千姫の気持ちもわかるわ~ってところがあって、結局家康があんなこと言うから悪いんじゃん、ってなる。でも尼になるから諦めろって言われたのに輿入れするとなったら、そりゃ切れるよな。

源六は出羽守の鏡だ。出羽が大名として武将として口に出せないことを源六は軽々しく口にする。それが出羽の心をえぐる。腹も立てる。でもきっとだれよりも愛していた家臣。。。その最期をもたらしたのは千姫か、自分か。源六がああいう行為に出なかったら出羽も輿入れ行列に切り込まなかったのでは。そんな純粋に出羽守を家臣として慕う源六を歌昇が熱演。熱血漢で一直線な若侍が似合い。

千姫の梅枝君がまたぴったりでね。ツンとして気位高く、とは言っても底意地が悪いわけじゃない。嫌なことは嫌という正直さとおじいさまに甘える塩梅が絶妙。現実に近くにいたら友達になりたくないけど。

橘太郎が思慮深く、忠義に篤い家老。お家のため、出羽守のため、必死に、しかし冷静に務める。源六とは違うがこれも忠義。

左團次の金地院が老獪さを見せ、梅玉が孫には甘い家康の狸親父ぶりを飄々と見せる。
亀蔵の平八郎が爽やかな二枚目ぶりで、出羽守との違いを際立たせる。いや~、平八郎が悪いわけじゃないんだけど。でもこの人がいなければ、とは思ってしまうよな。


長谷川伸=作
大和田文雄=演出
沓掛時次郎(くつかけときじろう) 三幕

沓掛時次郎:中村 梅 玉
三蔵女房おきぬ:中村 魁 春
大野木の百助:中村 松 江
苫屋の半太郎:坂東 亀 蔵
三蔵倅太郎吉:尾上 左 近
安宿の亭主安兵衛:市村 橘太郎
安兵衛女房おろく:中村 歌女之丞
六ッ田の三蔵:尾上 松 緑
八丁徳:坂東 楽 善

梅玉さんの股旅物って、どうよ?当代随一の殿様役者だよ?と思ったがこれが意外なほどよかった。
渡世人といっても根っからの悪人ではなく、どこか厭世的なムードを漂わせた時次郎が、渡世の義理から殺した三蔵に頼まれて残された妻子の世話をするうち、女房に淡い慕情を抱くも口には出せず。。。という時次郎の、冷めた心に宿るほのかな思い、熱さを前面に出さない感じがいかにも梅玉さん。心根が優しく清潔な時次郎に新しい梅玉さんの魅力発見。

魁春の薄幸で手を差し伸べたくなるおきぬもぴったり。
左近ちゃんが達者で、でもこまっしゃくれた感じはない嫌みのない子役ぶり。
橘太郎と歌女之丞の宿屋夫婦が人情のある様子でもり立てる。
最期に出てくる楽善がどっしりとした親分の落ち着きを見せる。
松江と亀蔵が弱っちいヤクザで、これはこれで梅玉を引き立てて良い味を出す。
そして序幕でさっさと殺されちゃうけど松緑もヤクザにしてはまっとうな人間で、良い父で夫であることを印象づける。ここ大事。

とても叙情的な作品で、決してハッピーエンドじゃないし悲しいけど、後味は爽やかでさえある。
ただ場面転換が多く間が空くのが煩わしい。もうちょっと工夫できないかとは思う。

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