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佳人礼讃展 [美術]

ホテルオークラ
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毎年夏にホテルオークラで開かれるチャリティー展覧会。今年のテーマは「佳人礼讃」。古今東西の女性を描いた絵を集めて展示。

第一章は肖像画。
と言っても、特に有名な人をモデルにした絵ばかりではない。モディリアーニ、キスリングなどの個性的な美女も並ぶ。
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岡田三郎助《支那絹の前》
画家の妻をモデルにした作品。着物も豪華。この着物と、背景の裂も高島屋資料館に保存されているというのも驚き。

第二章は美人画。
佳人というんだから当然美人画が中心。チラシは松園の「うつろふ春」。
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上村松園《三美人之図》
三人といっても三人目はほとんど見えないんだけど。姉妹なのか綺麗に着飾った女性達が優美。三つの傘が画面に動きを出して面白い。

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鏑木清方《さじき》(1945)
これ、歌舞伎座所有の絵なんですよね。以前公演の筋書きの表紙にもなってた。桟敷席で感激する母子。うきうきした様子が伝わってくる。

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伊東深水《楽屋》(1959)
同じ劇場が舞台でもこちらは出演者の方。女優なのか芸者なのか。玄人らしい艶な雰囲気が。

第三章は人物画の魅力。
いや、ここまでだって人物画なんだけど。と思わないでもなかったけど、物語性のある絵というくくりのような。
挿絵ではないが清方の「金色夜叉」や「雨月物語」などが並んで面白い。
このコーナーは西洋画も多かった。シャガールとかローランサンとかの夢の中の物語のような絵。

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ミレイ「聖テレジアの少女時代」(1893)
佳人というには幼い少女だが弟を連れて荒野に行こうとする聖女テレジア。ラファエル前派らしい繊細な描写が美しい。

ここでは多田北鳥による昭和20年代のキリンビールのポスター数点もあり、面白かった。

この展覧会、会期がいつも短くて油断してると行き損なう。今年ももう終わっちゃった。あまり宣伝してないのかな、いつ行っても空いててゆっくり見られるのは良いけど、もったいない気も。
図録的な冊子がたったの300円とか、太っ腹すぎる展覧会です。
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不染鉄展 [美術]

東京ステーションギャラリー
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201707_fusentetsu.html

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不染鉄(ふせん てつ)(1891年 - 1976年)。初めて聞いた名前。没後40年記念の展覧会だが、回顧展は21年前の一回きりで幻の画家と言われているらしい。と言うのも中央画壇から離れて活動していたからだとか。経歴もかなり変わっていて、20代の初め写生旅行に行った伊豆大島に住み着いて3年漁師をしたかと思うと、戻ってから京都絵専(現・芸大)に入学、帝展に入選するなど才能を高く評価されながら、戦後は奈良に住み着いて校長先生をやっていたそう。
「芸術はすべて心である。芸術修行とは心をみがく事である」とし、「いヽ人になりたい」と願ったという。
なんだかちょっと仙人のような人柄を想像してしまう。

初期の画風は、文人画のような南画のような、暖かみのある風景画が多い。
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《林間》大正8(1919)年頃
これは彩色だけど、水墨画にいい味わいの絵がたくさんあった。
また絵日記風の絵巻には字がびっしり書き込まれ、その文章もまた飄々として面白い。
絵の中の家々にはほとんどが人が描かれて生活が匂う。その眼差しが温かい。

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《山海図絵(伊豆の追憶)》大正14(1925)年
鉄の代表作とみなされる一枚。よく見ると遠近感とか比率がおかしい。手前に伊豆の海、富士を越して遙か日本海まで描かれるという奇抜さ。だが細部はあくまで写実。奇想と言うべきか。

1952年に校長の職を辞した後は画業に専念。この時代には、漁師をしていた頃への郷愁か、海の絵をたくさん描いているという。

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《南海之図》昭和30(1955)年頃
海の絵と言ってもそんじょそこらの海とは違う。一体どういう視点から描いているのか。まるで爆発しているような島に押し寄せる果てしない波。見ていると海の底に引きずり込まれそうな感覚になる。

晩年は奈良の景色や、日常や思い出を絵と文で綴った絵はがきも多く描いた。ほっこりとするユーモアと、ひたすら芸術を追究する純粋な人柄が重なり合う。

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《落葉浄土》 昭和49(1974)
田舎びた風景の中に立つ寺。よく見ると中にも外にも仏像が小さくもしっかり描き込まれて、周りの人家とともにひっそりと、しかし山村の暮らしに溶け込んだ信仰が見えるよう。

好みから言うと、若い頃の山水画がいちばん好きだったけど、他の絵もとてもインパクトが強くて、しかしどこか清々しさも感じる。こんな画家がいたんだ、と驚き。
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色絵の器展 [美術]

日本民藝館
http://www.mingeikan.or.jp/events/
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実は初めて訪問した日本民藝館。
今回の展覧会は、館所蔵の器から、天啓赤絵・呉州赤絵・古伊万里赤絵と、中国、日本の色絵を見せてくれる。

色絵はどれを見ても楽しい。形より柄がどれも凝っていて豪華なものも、素朴なものもそれぞれに工夫があって見飽きない。

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色絵丸文繋鉢〔天啓赤絵〕  明時代 17世紀前半
あら、可愛い。と思わず声が出そうに。今でもこんな絵付けの器ありそう。

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色絵赤玉花卉鳳凰文皿〔呉州赤絵〕  明時代 17世紀前半 径37.8㎝
呉須赤絵ってもっと地味な印象があったけどこれは華やか。祝い事の席などで使えそう。

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色絵蓮池翡翠文皿 伊万里 江戸時代 17世紀中葉 径36.4㎝
色合いは九谷っぽいかと思ったけど伊万里なのね。

よくある器展だと、名人の手になる絢爛豪華な絵付けや、青磁の洗練された器が並んだりするが、民藝館だからか、なんとなく普段使いされていたような、それでいて絵付けの美しい器が並んでいて、こんなのほしいなあ、と思うものがいっぱいあった。

また、併設展示として、河井寛次郎や濱田庄司ら民芸運動にかかわった作家の絵付け作品もあった。
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赤絵黍文角扁壺 濱田庄司 1938年 高15.0cm

面白かったのは、棟方志功や芹沢銈介のような陶芸家ではない作家のものがあったこと。絵付けだけをしたのだろうが、どれも志功らしい、銈介らしい色柄で楽しい。

他にも朝鮮の染付などもあり、器好きにはたまらない展覧会。
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杉本文楽 女殺油地獄 [舞台]

8月11日(金) 世田谷パブリックシアター

数年前に「曽根崎心中」を取り上げた杉本博司による文楽。第二弾として「女殺油地獄」を上演した。
と言っても、野崎参りの段も河内屋の段もなく、豊島屋の段だけ。それがわかった時点で既に期待薄だったのだが。

冒頭に近松門左衛門の人形を出し、そこまでのあらすじなどを語らせる。と言ってもナレーターは太夫ではなく杉本本人だったらしい。まずそこでのこの話の解釈に疑問がある。与兵衛がお吉を殺すのは、自分を好いてくれていると思っていたのに裏切られたから、みたいなことを言っていて、呆れた。そんなの聞いたことないわ。まあ杉本がそう思うのは勝手だけど。近松を出すのも三谷文楽のパクりみたい。

その後、まず「序曲」として三味線の清治による独奏。清治が作曲したという新曲は現代音楽のようなモダン・ジャズのようなフラメンコ・ギターのような気さえする、ちょっと不思議な不協和音を感じさせる曲。その後の展開を予感させる。

次に「豊島屋内」の前半、お吉と与平衛の両親のくだりは素浄瑠璃。期待した千歳太夫と藤蔵だったが、残念なことに千歳が不調で声が出ていない。字幕もないので、初めてこの演目を見る人にはわけがわからなかったのでは。
後半、与兵衛が訪ねてくるところからやっと人形が登場。前回同様、手摺りがないので特に足遣いは大変。普通の公演と違い照明がスポットライト的に当たるので、人形の顔に影ができて凄絶さは感じられる。だが手摺りがないせいか、舞台が狭いせいか、殺しの場面での立ち回りが小さく見える。油でつーーーっと滑っていく感じも今ひとつ迫力がない。チラシではこの場面の「殺しにこだわった」とのことだが、どこが?と思ってしまった。普段の公演の方がよっぽど恐ろしくて凄惨だと思う。観る前は、ひょっとして歌舞伎みたいに油まみれにしたりするのかしら、なんて思ったがもちろんそれもなし。

床は、与兵衛を呂勢と清治、お吉を靖と清志郎で分け、曲はここも清治の新曲。序曲同様不思議な響きだが、さすがに聞かせる。でも太夫は語りにくそうな気がしたがどうだろう。
熱演の呂勢と安定の靖、三味線の二人はもちろん熱のこもった演奏で、特に清治は自作とあってあくまで表情はいつものようにクールだがしびれる演奏。

だが、前回の曽根崎心中では、映像を使ったり、本物の仏像を出したり、と杉本の演出がわかりやすかったが、今回は冒頭に近松を出したのと清治の新曲以外目につくものがなかった。後で聞けば、序曲を弾く清治の後ろにあった金屏風や、豊島屋のセットにあった樽が本物の骨董品らしいが、それが見せたかったのだろうか。
これで正味80分の公演でチケット代が9000円。
まあ結局この杉本文楽って、前もそう思ったけど、杉本のアートに関心がある人が見に来るもので、文楽ファンが聞きに来るものじゃないんだね。

人形も床も技芸員のみなさんは真摯に一生懸命やっておられただけに、なんだかいろいろ残念な気持ちだけが残った。

しかし清治さんがこんなイベントに手を貸しておられるのを見ると、普段の公演で切場を弾けないので欲求不満がたまってるんではないかと勘ぐってしまう。本公演でももっと良い場面で弾かせてほしい。

【口上】
◎人形役割
(近松門左衛門)吉田玉佳

【序曲】
◎三味線
鶴澤清治、鶴澤清志郎、鶴澤清馗

【下之巻・豊島屋】
≪前≫
◎太夫・三味線
竹本千歳太夫・鶴澤藤蔵

≪奥≫
◎太夫・三味線
(河内屋与兵衛)豊竹呂勢太夫・鶴澤清治
(女房お吉)豊竹靖太夫・鶴澤清志郎

◎人形役割
(河内屋与兵衛)吉田幸助
(女房お吉) 吉田一輔

◎囃子:望月太明藏社中

◎人形部:※以下、五十音順
桐竹紋臣 吉田玉翔 吉田玉勢 吉田玉延
吉田玉彦 吉田玉路 吉田玉誉 吉田簑悠


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八月納涼歌舞伎第二部 [舞台]

歌舞伎座

一、修禅寺物語(しゅぜんじものがたり)
夜叉王   彌十郎
姉娘桂   猿之助
源頼家   勘九郎
春彦    巳之助
妹娘楓   新悟
下田五郎   萬太郎
金窪兵衛   片岡亀蔵
修禅寺の僧   秀調

彌十郎の父と兄の追善狂言。
苦手な新歌舞伎の中でも特に嫌いな作品。誰がやっても面白いと思えないんだよな。
彌十郎の夜叉王は仕事に誠実な人と言う様子で、もっと気難しさや芸一筋の一徹さが見えると良いなあ、と思う。
猿之助の姉娘、気位が高く上昇志向の可愛げのなさがぴったり。
勘九郎の頼家に孤独な将軍の哀愁と気品がある。「頼朝の死」の頼家をやったらどうだろう、とふと思った。

新悟の妹娘が気立ての良い、姉と対照的な優しげな様子。
巳之助の春彦も真面目で実直な青年。似合いの夫婦。
萬太郎の五郎が武士らしい颯爽とした様子。

しかしこの演目、ずっと舞台が暗いし話も重いしで、睡魔と激闘。


東海道中膝栗毛
二、歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)
弥次郎兵衛 宙乗り相勤め申し候
喜 多 八   

弥次郎兵衛   染五郎
大道具伊兵衛   勘九郎
女医羽笠     七之助
座元釜桐座衛門    中車
天照大神又は町娘お笑   笑也
瀬之川伊之助   巳之助
中山新五郎    新悟
玩具の左七   廣太郎
芳沢綾人   隼人
女房お蝶   児太郎
舞台番虎吉   虎之介
伊之助妹お園   千之助
伊月梵太郎    金太郎
五代政之助    團子
瀬之川亀松    鶴松
芳沢小歌     弘太郎
瀬之川如燕    寿猿
芳沢菖之助     宗之助
芳沢琴五衛門    錦吾
若竹緑左衛門      笑三郎
同心古原仁三郎    猿弥
同心戸板雅楽之助   片岡亀蔵
鷲鼻少掾     門之助
関為三郎   竹三郎
喜多八   猿之助 

去年に続いての染猿の弥次喜多もの。でも今回は舞台は歌舞伎座。大道具として働く二人が歌舞伎座で起きた殺人事件の謎解きに一役買う、いわばバックステージもの。
と言うわけで去年のように旅もしないし、ましてやラスベガスの外人も出てこないので、破壊力は去年ほどではない。言い換えれば、歌舞伎味は濃かった。
幕開きに、去年の舞台をダイジェスト映像で見せるので、去年見ていない人にも入りやすい。と言っても、見てなくてもどうってことないけど。
ストーリーを言っても仕方ないので省くが、劇中劇で四の切が上演される。そこで忠信を演じるのが巳之助。これがキビキビしてなかなか良かった。近いうちに本公演でも、と期待。

びっくりが静を竹三郎が。劇中でも50年ぶりとかいじられていたが、なんのなんのお綺麗なこと。いや、驚いた。
寿猿との長老コンビが笑わせる達者ぶり。

金太郎と團子が今年も大人びた子供のコンビで場をさらう。
門之助と笑三郎が竹本のコンビに扮し、口パクかと思ったらちゃんと演奏していたのでこれもびっくり。役者って偉い。
猿弥の”古原仁三郎”がいかにもパロディで笑わせる。
中車の座元もキンキラの衣装で、今やすっかり有名になった昆虫博士の面を披露する場も。ここでは顔芸もたっぷり。
出色が児太郎のお蝶。わがまま女房の身勝手さ可笑しさをオーバー気味に。わ~お父さんの血だわ~!

他もいちいち上げてたらきりがない。多くの役者にそれぞれ役と台詞を割り振った作者の努力には頭が下がるが言い換えればそれで終わってるという気もする。

劇中、四の切の仕掛けを解剖して見せる下りがあって、へええ、こんな風になってるのかあ、と感心しきり。いや、でもこんなのお客に見せて良いの、と思っちゃったけど。

結末部分が二通りあり、お客の拍手でどちらか選ぶという趣向。私が見た日はAだった。両方覚える役者は大変。

染五郎と猿之助は狂言回し的な役回りでちょっと損してたような。でも幕開きと幕切れ二回の宙乗りの大サービス。ご苦労様。


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八月納涼歌舞伎第一部 [舞台]

歌舞伎座

8月は恒例の三部制。まず第一、二部を見てきた。

一、刺青奇偶(いれずみちょうはん)
半太郎    中車
お仲    七之助
赤っぱの猪太郎   亀鶴
従弟太郎吉    萬太郎
半太郎母おさく    梅花
半太郎父喜兵衛   錦吾
荒木田の熊介    猿弥
鮫の政五郎    染五郎

配役を見た時は、え、中車と七之助?勘九郎と七じゃなくて?と意外だった.今まで組んだこともなかったと思うし。
だが蓋を開けてみれば想像以上にしっくりきて良いコンビ。
まず中車が良い。博打好きだが根は真っ直ぐな男の影のある様子と、お仲への一途な思いがストレートに伝わる。少なくともこうした新歌舞伎ではもう立派な歌舞伎役者と言って良いと思う。大詰めの政五郎へのお仲を思う台詞が胸に響いてぼろ泣き。

七之助は玉三郎写しが濃すぎて、いや良い芝居なんだけど、玉様の影がつきまとう感じがなんだかなあ。後半にはもっと七の個性が出るだろうか。でも前半のやけっぱちな女が半太郎に救われて、生まれ変わったようになり、ひたすら半太郎を思う女のいじらしさと優しさ哀れさが胸を打つ。

染五郎は残念ながら大親分と言うには貫禄不足。
猿弥の熊介が三枚目敵のような味でコミカルさもあって笑わせる。

前に観たときは記憶に残らなかった半太郎の両親とのすれ違いが悲しい。でもきっと半太郎が最後の勝負に勝てたのは、両親が祈ったお地蔵さんの盃のおかげでは、と思えてまた泣けた。


二、 上 玉兎(たまうさぎ)
    下 団子売(だんごうり)
〈玉兎〉
玉兎    勘太郎
〈団子売〉
お福    猿之助
杵造    勘九郎

小1になったばかりの勘太郎が一人で踊る。それだけでも驚きだが、ちゃんと体を使って音楽に乗って踊ってみせる。ただ可愛いだけでなくしっかり踊れていることに感動。おばちゃん、泣けるわ。

団子売りは踊りの名手二人が揃って悪かろうはずがない。粋な勘九郎、あだで可愛い猿之助。二人が軽妙に息もぴったりに踊る楽しさときたら。はあ、眼福。短すぎて不満。もっともっと二人の踊りが見たい。

しかし玉兎から団子売への流れって、勘太郎ちゃんがついたお餅を勘猿が売ってるのね~wwとなった。


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ジャコメッティ展 [美術]

国立新美術館
http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/introduction/
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スイス生まれの彫刻家アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966年)の展覧会。
名前は知ってるけど、個展は初めて。
ジャコメッティというと細長くて薄っぺらい像で知られる。でもそれにも大小のヴァリエーションがあって、小さいのはほんの数センチから大きい方は2メーター近いのもある。

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大きな像(女:レオーニ)1947年 ブロンズ 167 × 19.5 × 41 cm
写真ではサイズ感がわからないが、ほぼ実物の人間の大きさ。これはこういう作品を作るようになった初期のものだという。その後のものとサイズやポーズは違っても、このひょろひょろとして薄い形はほとんど変わらないようだ。

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犬 1951年 ブロンズ  47 × 100 × 15 cm
人間だけでなく、犬もジャコメッティにかかるとこの通り。なんとも痩せ衰えて骨と皮だけになってしまったかのような哀れな犬。何故か人物像よりもリアルに感じられて悲哀が漂う。

ジャコメッティはモデルに大変な忍耐を要求したそうで、結果弟や妻などの親しい人が多くモデルを務めたらしい。そんな中、親しくなった日本人の矢内原伊作と言う学者がたくさんモデルになったというのが面白い。彼をモデルにした彫刻や素描画数点ずつ展示されていた。

また、彫刻はもちろんだが、ジャコメッティが残した素描や版画も展示されていて、こちらもなかなか興味深い。

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犬、猫、絵画 1954年  リトグラフ
中に上記の「犬」も描かれている。デッサンは日課にしていたと言うことで、ささっと描かれた軽いタッチだが確かな技量。

暮らしたパリの街角を描いた版画があってこれが素敵だった。自分的には彫刻より版画が気に入った。

そういう素描、版画も含めてジャコメッティの全貌が見られる展覧会。
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月岡芳年 妖怪百物語 [美術]

太田記念美術館

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幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師月岡芳年(1839~92)。国芳の弟子で、師匠と同じく英雄画や歴史画、美人画など多くのジャンルを手がけたが、中でも人気があったのが化け物や妖怪の絵。今回はそういった作品の特集。

数多い中で、画業の初期に描いた26図からなる揃物「和漢百物語」と、最晩年に手がけた36図からなる揃物「新形三十六怪撰」という二つの作品は、ともに多数の妖怪たちが登場する怪奇画集の傑作として知られていて、本展では、この二つををそれぞれ全点公開するのが売り物。

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「和漢百物語 華陽夫人」
中国の話に取材した絵。生首を持って優雅に微笑む、まるでサロメのような女の絵。

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「新形三十六怪撰 ほたむとうろう」
牡丹灯籠。あのカランコロンという下駄の音とともにやってくる幽霊。歌舞伎でもおなじみ。

この他にも「土蜘蛛」とか、船弁慶の知盛とか、歌舞伎などでもよく見る演目も多く、楽しい。
ちなみにチラシの絵が土蜘蛛なんだけど、糸を頼光にかけようとしてるのが、まるでレースでも広げてるみたいで可笑しい。

初期と晩年の作を比べてみると、晩年の方が線が繊細で、色使いもパステル調というか抑えめな絵が多い。顔料の進歩などもあるのかしら。

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「一魁随筆 托塔天王晁葢」
芳年の絵って、幕末までの絵に比べて赤がどぎつく感じることが多い。これもそうだが、やっぱり顔料が変わったのかな。

師匠の国芳の描く妖怪変化に比べると、可笑しさや可愛さよりグロテスクな不気味さやおどろおどろしさが強く感じられる。何でも芳年自身が幽霊を見たと言っているそうで、そんな「リアルさ」が反映されているのかも。

夏にはぴったりの展覧会。
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第三回双蝶会 [舞台]

8月6日(日) 国立劇場小劇場

中村歌昇と種之助兄弟による勉強会も3回目となった。尊敬する播磨屋に指導を仰ぎ、播磨屋の芸を受け継ごうとする二人の成長に目を細める機会となった。

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一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
 奥殿

一條大蔵長成:中村種之助
吉岡鬼次郎:中村歌昇
お京:中村米吉
八剱勘解由:中村蝶十郎
鳴瀬:中村蝶紫
常盤御前:中村壱太郎

まずは種之助が大蔵卿に挑んだ。種ちゃんの大蔵卿は、世を偽って生きてきた人の悲しみが見えるようで、とにかく可愛い作り阿呆とのギャップを巧く見せていた。檜垣も見たい。

歌昇の鬼次郎はニンに合っていつか本公演でもやれそう。種ちゃんを見る目が時々お兄ちゃんになっちゃうのが、らしいと言えばらしい。

壱太郎の常盤は品良く位取りも良い。いかんせん幼く見えて子供が三人いるようには見えないが。
米吉のお京は眉なしのメークがしっくりきたのが収穫。ちょっと前まではああいうのは浮いてたと思う。声が凜として武家女房の雰囲気が出てた。
蝶十郎の勘解由が憎々しく、蝶紫の鳴瀬もしっかりとした武家勤めの女の風情があって、脇を固めた。


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傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
 土佐将監閑居の場

浮世又平後に土佐又平光起:中村歌昇
女房おとく:中村種之助
土佐将監:中村又之助
将監北の方:中村梅乃
狩野雅楽之助:中村蝶三郎
土佐修理之助:中村米吉

又平は、愚直なまでの必死さが歌昇君自身の必死さと重なって胸を打つ。最後の名字をもらってからがやや顔芸気味になったのが惜しい。

種之助のおとくはほんとに情があって旦那思いの気立ての良い奥さん。経験の浅い女形でこれほどやれるとは期待を遙かに上回った。これからももっと女形もやってほしい。

師匠夫婦がいなくなって、又平夫婦二人きりになって、死を決意して絵を描いて奇跡が起こって、の部分が客席も静まりかえって二人を見守っていたのが印象的だった。それほど二人に引き込まれていたんだと思う。良い夫婦だったなあ。

米吉の修理之助はすっきりとしたお行儀良い好青年。花道引っ込むとき刀を腰に差すのに手間取ったのがツボった。

又之助のお師匠さんも威厳と情があって素敵だった。
梅乃の北の方は綺麗で、後妻ですか、って思うくらいだけど、お優しくて、着替えを持ってきておとくに声かけるのがほっこり。
蝶三郎の雅楽之助が颯爽として凜々しかった。

大蔵卿では愛大夫が、吃又には葵大夫が竹本を務めて下さる贅沢もありがたい。

第一回では染五郎や松緑、芝雀などゲストに頼る部分もあったが、今回は同年配の米吉、壱太郎の他はお弟子さん達で作り上げた舞台。
でも去年までの熱気で持って行った芝居から、一段上がって、たとえ二人を応援していない人にもちゃんと見せられる内容の充実した舞台になっていた。おばちゃん、よくここまでとしみじみしてしまって、思い返しても泣けてくる。

もちろんまだまだ播磨屋さんからお褒めにあずかるレベルではないかもだけど、でもこうして二人が真摯に播磨屋の芸を受け継ごうとしてくれることは播磨屋さんにとっても贔屓にとっても本当にうれしいこと。染ちゃんが頑張ってくれるとしても一人では難しい。その隙間を埋めてくれればと思う。
来年の開催も決まっている。何をやるのか、本当に楽しみ。


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松竹大歌舞伎 中央コース [舞台]

7月30日 厚木市文化会館
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去年始まった雀右衛門襲名披露の最後となる公演。この日は千穐楽でまさに最後。

一、妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)
三笠山御殿
杉酒屋娘お三輪    芝雀改め中村 雀右衛門
烏帽子折求女実は藤原淡海   中村 歌昇
入鹿妹橘姫     中村 米吉
豆腐買おむら    大谷 友右衛門
漁師鱶七実は金輪五郎今国     中村 吉右衛門

雀右衛門のお三輪は田舎娘の朴訥さと求女に恋する娘の一途さがあって可憐。場違いな御殿に紛れ込んでしまった恐れに戸惑いながらも、官女らにいじめられてもひたすら求女の姿を追い求める様子がいじらしくも哀れ。諦めて帰ろうとして、祝言の声に耐えきれず、「あれを聞いては帰られぬ」と一転裏切られた怒りと恨みに「疑着の相」を見せる変化がくっきりとして鮮やか。この人が怒りなどの激しい表情を見せるのって、考えてみると珍しいかもしれない。でもやっぱり最後は求女に会いたいと焦がれながら死んでいく様子が涙を誘う。

吉右衛門の金輪五郎はひたすら堂々として大きい。一種不気味なまでの古怪さがあって、朗々とした台詞回し共々義太夫狂言の面白さを堪能させてくれる。

求馬と橘姫は歌昇と米吉の初々しいカップル。こういう二枚目の色男に不慣れな歌昇君はやや堅さがあり、もっと開き直ってやってもという感じ。米吉もこの人にしては求女恋しさが薄く(まあ、行儀が良いと言えなくもない)、二人ともちょっと物足りなかった。

二、五代目中村雀右衛門襲名披露 口上(こうじょう)
千穐楽、襲名口上もこれが最後。去年4月の襲名から1年半足らずですっかり名前もなじんで、一回りも二回りも存在感が大きくなった雀右衛門さん。福助の不在、玉三郎も歌舞伎の舞台から遠ざかりがちな今、ますます立女形としての活躍が期待される。

三、太刀盗人(たちぬすびと)
すっぱの九郎兵衛    中村 又五郎
目代丁字左衛門     中村 吉之丞
田舎者万兵衛      中村 種之助

又五郎の九郎兵衛は持ち役で、ギロギロと獲物を探す目つきの悪さからして笑いを誘う。何事も万兵衛の後を真似して言う台詞も踊りもわざと下手に見せる匠の技。
種之助の万兵衛は田舎者らしいおっとりした様子で、踊りは行儀よくすっきり。何より困った顔のかわいさがプライスレス。
吉之丞の目代は老人の拵えで、よぼよぼした様子がほんのりおかしい。

播磨屋さんが出て下さったことで、座組は小さいながら巡業とは言え充実した舞台で、襲名興行を締めくくることができて京屋さんもお幸せだと思う。


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