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2月文楽公演第三部 [舞台]

2月20日(月) 国立劇場

今月の公演もこの日が千秋楽。2月は逃げると言うけれど、ほんとに日々が過ぎるのが早く感じる。

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
    寺入りの段 睦・清馗
    寺子屋の段 津駒・寛治、嶋・富助
玉女の松王丸、文雀の千代、和生の源蔵、勘壽の戸浪

文雀の千代が圧巻。もう全然周りを圧倒してる。いや、こう書くとなんだか他を邪魔してるようだがそうじゃない。決して出しゃばったりするわけじゃないのだけど、あんまり素敵でずっと目が離せなかった。きれいで、品が良くて凛とした武家女の風情が十分なのはいつも通り。ちょっとした頭の傾け方、手の動き、全てがちゃんと意味があって理由があって、千代の心の動きを示している。決して大げさじゃないのに目を引きつける。
例えば、松王に「もう泣くな」と言われて、つと頷いて唇を噛んで(そう見える!)脇へ下がるところの気丈さと哀れさ。背中で源蔵と松王のやりとりを聞いて源蔵の「潔う首差し出し」でハッと向き直る。そういう仕草の一つ一つが素敵すぎて、涙と溜息。
まったく、松王を差しおいて、千代のくだりで泣かされるなんて歌舞伎でもなかったこと。本当に素晴らしかった。

玉女の松王も決して悪くなかったが、如何せん文雀さんの陰に隠れてしまった感はあり。とは言え、大きさもあり、落ち着きと腹もあって立派な松王でしたが。
和生の源蔵がさすがに律義な武士の様子をきっちり。こういう端正な雰囲気がお似合い。
勘壽の戸浪も丁寧。

津駒と寛治が首実検まで。特に前半の源蔵夫婦の苦悩をじっくり聞かせる。ここでは特に寛治の三味線が切々。寛治さんの三味線って、なんだか他の人より手が少ない感じがする。最小限しか音をつけてないような。でもそれがほんとに効果的。源蔵夫婦が小太郎を身替わりにしようと決めるくだりなんか二人の心を代弁するような少ない音が胸を打つ。ジャンジャカ弾けばいいってもんじゃない。

切りの嶋さんも良かった。ほんとは私は嶋さんが娘を語るのが凄く好きなんだけど。お里とかお光とか。でも松王は渋く貫禄があり、千代には哀れさがあり、いろは送りは切々。ええもん聞いたわぁ、と思わせてくれる。

しかし今更思うのは、松王夫婦はああして子どもを犠牲にしてもそれは表沙汰にはできず、世間的にはこれからもずっと「松はつれない」と言われるのだな、ということ。千代さんはあの後生きていくだろうか。そんなことは今まで歌舞伎の誰の千代でも考えなかったけど、そんなことまで思わせた文雀さんの千代だった。
子を殺させた夫婦と、人の子を殺した夫婦と、どちらが辛いのだろう。それが忠義のためだとしても。まさしく「せまじきものは宮仕え」。

近松門左衛門=原作
 日本振袖始(にほんふりそではじめ)
    大蛇退治の段
     鶴澤清治=補綴・補曲
        尾上墨雪=振付

H24-2-3チラシ.JPG
今年は古事記ができて1300年という記念の年とか。一昨年大阪で復活上演されたものを振り付けを変えるなどしての上演。
呂勢・咲甫・芳穂・靖、清治・清志郞・清丈・龍爾・清公
勘十郎の岩長姫、幸助の素戔嗚尊、一輔の稲田姫

いや~、面白かった!歌舞伎では見たことあるが、断然こっちが面白い。
勘十郎の岩長姫が妖しく、恐ろしく、しかし美しい。人形でこれだけ激しく踊れるなんて凄い。途中ガブを使ったり、最後は鬼の頭に変わって迫力も満点。いややっぱり勘十郎さんは素敵。
でも不満は、岩長姫は素戔嗚尊に退治されてしまうので、幕切れには勘十郎さんがいなくて十分拍手できなかったこと。カーテンコールしてほしかったわ。

八岐大蛇には石見神楽で使われる大蛇を模したものを出し、これも迫力いっぱい。蛇腹のように伸び縮みする仕掛けになっているのが舞台狭しとうねる姿は圧巻。

作曲もした清治率いる三味線もさすがの聞き応え。華やかで、ビンビン来る演奏。途中で胡弓や琴(八雲琴)も効果的に使われる。珍しかったのは囃子方の鼓の人が途中から床の横で演奏したこと。普通文楽では囃子方は御簾内なんだけど。初めて見たかも。

ぜひこれは文楽の新しいレパートリーとして定着させてほしいと思う。

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