七月大歌舞伎・昼の部 [舞台]
7月18日(月) 新橋演舞場
去年末から謹慎していた海老蔵が復帰と言うことで、初日あたりは贔屓とマスコミが押しかけてうるさそうだったので、中日を過ぎて観劇。
一、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
鳥居前
佐藤忠信実は源九郎狐 右 近
静御前 笑 也
早見藤太 寿 猿
武蔵坊弁慶 猿 弥
源義経 門之助
思えば猿之助が元気だった頃は、7月公演は澤瀉屋一門中心だったわけで、猿之助が倒れた後は玉三郎の後ろに回ったり、なんだか脇役扱いの澤瀉屋だが、こうして一演目とは言え大歌舞伎でそれも古典作品を一門だけでやれたのは喜ばしいことなのでは。
右近は一時より痩せたような。すっきりしてその分動きも良くなった。澤瀉屋型は他より立ち回りが激しい気がするが、そつなく見せて上々。隈もよく似合うし、こういう役は向いてる。
笑也の静は、綺麗で品もあるが、可愛げが足りない。義経が好きで好きで、だから何とかお供に加わりたい、と言う心が見えない。表面的すぎる。もったいないなあ。
門之助の義経はさすがに品と貫禄がある。この人なんてもっと活躍してほしいよね。
猿弥の弁慶が元気よく愛嬌もあり。
寿猿の藤太というのは、三枚目敵にはいささか硬い感じ。
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶 團十郎
富樫左衛門 海老蔵
亀井六郎 友右衛門
片岡八郎 権十郎
駿河次郎 松 江
常陸坊海尊 市 蔵
源義経 梅 玉
これが海老蔵復帰最初の演目。初日は「待ってました」とか大向こうがわんさかかかったそうだが、さすがにこの日はそれほどではなく、客席も落ち着いていた。
團十郎の弁慶、梅玉の富樫に付き合ってもらって、これ以上ない舞台は整った。さて、海老蔵の富樫は。
少し痩せたが、見た目はいい。声も良い。だけど台詞回しがねえ。
はっきり言って、謹慎前となんにも変わっていない。
妙な抑揚や、語尾を変に伸ばす癖。う~ん、謹慎中何をやってたんだろう。
病気や怪我からの復帰じゃないんだから。ただ、元気に出てきた、ってだけじゃいけないんじゃないの。
それを良かった良かったとはやすファンが多いのは、まさしく贔屓の引き倒し。
ただ一つだけ良かったのは、義経一行を見逃した後引っ込む際、富樫はすでに死ぬ気だな、と言う覚悟がはっきり見えた。その気迫は良かった。
お父さんの團十郎、まあ気が気じゃないだろう。なんだかお疲れが見えるようだが、さすがに本役中の本役。懐の大きさもあり、迫力もあり、やはり当代一の弁慶には違いない。
こんな変に話題の舞台に付き合う梅玉もある意味気の毒だが、こちらもさすが。品があり、哀れさがあり、身をやつしても御大将の貫禄もあり、魅せた。この人の義経、最後に花道を引っ込むとき、笠に手をやって富樫をちらと振り返り謝意を一瞬示す、そこが好きだ。
三、楊貴妃(ようきひ)
楊貴妃 福 助
高力士 海老蔵
天真の従兄のちの楊国忠 権十郎
一の姉のちの韓国夫人 笑三郎
二の姉のちの虢国夫人 春 猿
三の姉のちの秦国夫人 芝のぶ
女道士 歌 江
竜武将軍陳元礼 猿 弥
李白 東 蔵
玄宗皇帝 梅 玉
大佛次郎作の新歌舞伎。全くの初見。
楊貴妃が美貌を見いだされて皇妃となり、反乱にあって命を落とすまでのお話。
后になる前に楊貴妃が秘かに心を寄せていた美男子、高力士が皇帝の使者として迎えに来る運命の皮肉に翻弄される二人の愛憎が軸になるのだが、、、。
心理劇、なんだろうな、一応。でも、二人の心の動きがわかりにくい。特に海老蔵の高力士。
終幕、皇帝の意を受けた形で楊貴妃を殺害するのが、妃が反乱する民衆になぶり殺しにされるのを避けるため(これは表向き)、なんだが、妃を愛しているから民衆から守ろうとしているのか、前幕で自分を愚弄した妃を憎んでいるからなのか。ま、どっちもなんだろうけど、海老ちゃんとしてはどっちと思っているのか?と言うのが見えないんだな。これは脚本の問題かもしれないけどね。
福助の楊貴妃は、「絶世の美女」にはいささか辛いものの、「女子力」だけはやたら強い女を演じさせたらそりゃこの人しかいない。序幕での高力士に心を寄せ、山の中の寺でひっそり暮らす様子に無理があるが、后となって高慢になり、李白を宮中から追い出したり、宦官の高力士をなぶったりするところは、福助らしさ全開と言ったところ。
海老蔵は美男子という設定にはぴったりだが、源氏物語の光源氏と同じで、妙になよなよとした台詞回しがやっぱり可笑しい。かと思うと、変に時代物風に言ってみたり、安定しないのは相変わらず。終幕、楊貴妃を殺す場面では、ぞくっとするような冷酷さがあり、まるで色悪みたいだった。
梅玉の玄宗皇帝というのはニンじゃなさそうだが、皇帝らしい貫禄や威厳があるのはさすが。でも楊貴妃にめろめろで国を傾けちゃう、って言うのは無理があるみたい。
笑三郎、春猿、芝のぶの三人の姉がコメディ風で可笑しい。特に春猿がノリノリ。三人ともどう見ても福助より若いけど。
東蔵の李白が、世を達観した詩人のひょうひょうとした味を見せて上手い。
しかし、大佛はなんでこの題材を歌舞伎にしたのかねえ。「国性爺合戦」があるから、中国を舞台に歌舞伎があってもおかしくはないけど、やっぱりそぐわない感じ。衣装などは綺麗で舞台映えはするが。
昼の部は、結果的に「鳥居前」がいちばん歌舞伎らしく出来が良かった。
去年末から謹慎していた海老蔵が復帰と言うことで、初日あたりは贔屓とマスコミが押しかけてうるさそうだったので、中日を過ぎて観劇。
一、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
鳥居前
佐藤忠信実は源九郎狐 右 近
静御前 笑 也
早見藤太 寿 猿
武蔵坊弁慶 猿 弥
源義経 門之助
思えば猿之助が元気だった頃は、7月公演は澤瀉屋一門中心だったわけで、猿之助が倒れた後は玉三郎の後ろに回ったり、なんだか脇役扱いの澤瀉屋だが、こうして一演目とは言え大歌舞伎でそれも古典作品を一門だけでやれたのは喜ばしいことなのでは。
右近は一時より痩せたような。すっきりしてその分動きも良くなった。澤瀉屋型は他より立ち回りが激しい気がするが、そつなく見せて上々。隈もよく似合うし、こういう役は向いてる。
笑也の静は、綺麗で品もあるが、可愛げが足りない。義経が好きで好きで、だから何とかお供に加わりたい、と言う心が見えない。表面的すぎる。もったいないなあ。
門之助の義経はさすがに品と貫禄がある。この人なんてもっと活躍してほしいよね。
猿弥の弁慶が元気よく愛嬌もあり。
寿猿の藤太というのは、三枚目敵にはいささか硬い感じ。
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶 團十郎
富樫左衛門 海老蔵
亀井六郎 友右衛門
片岡八郎 権十郎
駿河次郎 松 江
常陸坊海尊 市 蔵
源義経 梅 玉
これが海老蔵復帰最初の演目。初日は「待ってました」とか大向こうがわんさかかかったそうだが、さすがにこの日はそれほどではなく、客席も落ち着いていた。
團十郎の弁慶、梅玉の富樫に付き合ってもらって、これ以上ない舞台は整った。さて、海老蔵の富樫は。
少し痩せたが、見た目はいい。声も良い。だけど台詞回しがねえ。
はっきり言って、謹慎前となんにも変わっていない。
妙な抑揚や、語尾を変に伸ばす癖。う~ん、謹慎中何をやってたんだろう。
病気や怪我からの復帰じゃないんだから。ただ、元気に出てきた、ってだけじゃいけないんじゃないの。
それを良かった良かったとはやすファンが多いのは、まさしく贔屓の引き倒し。
ただ一つだけ良かったのは、義経一行を見逃した後引っ込む際、富樫はすでに死ぬ気だな、と言う覚悟がはっきり見えた。その気迫は良かった。
お父さんの團十郎、まあ気が気じゃないだろう。なんだかお疲れが見えるようだが、さすがに本役中の本役。懐の大きさもあり、迫力もあり、やはり当代一の弁慶には違いない。
こんな変に話題の舞台に付き合う梅玉もある意味気の毒だが、こちらもさすが。品があり、哀れさがあり、身をやつしても御大将の貫禄もあり、魅せた。この人の義経、最後に花道を引っ込むとき、笠に手をやって富樫をちらと振り返り謝意を一瞬示す、そこが好きだ。
三、楊貴妃(ようきひ)
楊貴妃 福 助
高力士 海老蔵
天真の従兄のちの楊国忠 権十郎
一の姉のちの韓国夫人 笑三郎
二の姉のちの虢国夫人 春 猿
三の姉のちの秦国夫人 芝のぶ
女道士 歌 江
竜武将軍陳元礼 猿 弥
李白 東 蔵
玄宗皇帝 梅 玉
大佛次郎作の新歌舞伎。全くの初見。
楊貴妃が美貌を見いだされて皇妃となり、反乱にあって命を落とすまでのお話。
后になる前に楊貴妃が秘かに心を寄せていた美男子、高力士が皇帝の使者として迎えに来る運命の皮肉に翻弄される二人の愛憎が軸になるのだが、、、。
心理劇、なんだろうな、一応。でも、二人の心の動きがわかりにくい。特に海老蔵の高力士。
終幕、皇帝の意を受けた形で楊貴妃を殺害するのが、妃が反乱する民衆になぶり殺しにされるのを避けるため(これは表向き)、なんだが、妃を愛しているから民衆から守ろうとしているのか、前幕で自分を愚弄した妃を憎んでいるからなのか。ま、どっちもなんだろうけど、海老ちゃんとしてはどっちと思っているのか?と言うのが見えないんだな。これは脚本の問題かもしれないけどね。
福助の楊貴妃は、「絶世の美女」にはいささか辛いものの、「女子力」だけはやたら強い女を演じさせたらそりゃこの人しかいない。序幕での高力士に心を寄せ、山の中の寺でひっそり暮らす様子に無理があるが、后となって高慢になり、李白を宮中から追い出したり、宦官の高力士をなぶったりするところは、福助らしさ全開と言ったところ。
海老蔵は美男子という設定にはぴったりだが、源氏物語の光源氏と同じで、妙になよなよとした台詞回しがやっぱり可笑しい。かと思うと、変に時代物風に言ってみたり、安定しないのは相変わらず。終幕、楊貴妃を殺す場面では、ぞくっとするような冷酷さがあり、まるで色悪みたいだった。
梅玉の玄宗皇帝というのはニンじゃなさそうだが、皇帝らしい貫禄や威厳があるのはさすが。でも楊貴妃にめろめろで国を傾けちゃう、って言うのは無理があるみたい。
笑三郎、春猿、芝のぶの三人の姉がコメディ風で可笑しい。特に春猿がノリノリ。三人ともどう見ても福助より若いけど。
東蔵の李白が、世を達観した詩人のひょうひょうとした味を見せて上手い。
しかし、大佛はなんでこの題材を歌舞伎にしたのかねえ。「国性爺合戦」があるから、中国を舞台に歌舞伎があってもおかしくはないけど、やっぱりそぐわない感じ。衣装などは綺麗で舞台映えはするが。
昼の部は、結果的に「鳥居前」がいちばん歌舞伎らしく出来が良かった。
タグ:歌舞伎
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