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六月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

6月21日(火) 新橋演舞場

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一、吹雪峠(ふぶきとうげ)
直吉  染五郎                   
助蔵  愛之助                  
おえん  孝太郎

宇野信夫作、昭和10年初演の新歌舞伎。
兄貴分の妻と駆け落ちした男女と、元の夫が偶然出会って、と言うドロドロ劇。
う~ん、なんと言ったらいいか……。究極の心理ドラマとしてはよく書けているし、役者も3人とも悪くはない。
でもねえ、「これって、歌舞伎?」って感じなんだなあ。
たとえ歌舞伎役者のために書かれたものでも、登場する女を女優でやっても良いんじゃない、と思えたら、それは歌舞伎じゃない気がするの。
これも、たとえば「お国と五平」なんかもそうだけど、わざわざ歌舞伎で上演する必要があるのかなあ。もっと他に歌舞伎で観たいのはあるよ、と思ってしまう。
役者が一生懸命やればやるほど、なんか空回りしてるような、もったいないような。

孝太郎に、自分の思いに忠実に生きようとする女の可愛げと汚さの二面性が見えて秀逸。
愛之助は弱気で一途な男の哀れさがあった。
染五郎は寝取られながら二人を許そうとしてやはり許せない、一本気な男を骨太に見せて新境地か。最後の高笑いが虚しく響く。
さて幕が下りた後、残された二人は一体どうなるのやら……。

二、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
  住吉鳥居前   
  難波三婦内   
  長町裏               
団七九郎兵衛  吉右衛門                 
女房お梶  芝 雀                   
お辰  福 助                
玉島磯之丞  錦之助                 
傾城琴浦  孝太郎                  
伜市松  金太郎                  
堤藤内  桂 三              
大鳥佐賀右衛門  由次郎                 
釣船三婦  歌 六               
三河屋義平次  段四郎                
一寸徳兵衛  仁左衛門

この頃中村屋の上演が続く夏祭、久しぶりの吉右衛門、さらに仁左・吉の共演というのが話題。この二人じゃ、どうしたって浪速の駆け出しのヤクザと言うには貫禄がありすぎて、まあその点は目をつぶらざるを得ないのだが、住吉の場での二人の達引きの気持ち良さと言ったら、そんな細かいこと言ってないで、これを眼福と言わずにどうする、と思える面白さ。大顔合わせの醍醐味とでも言おうか。どちらか一人だけでも舞台に出てくれば充分華があるのに、二人が揃うことで一層ぱっと舞台が明るくなるような。うん、ほんと、楽しかったなあ。

長町裏の殺しの場では、吉右衛門はさすがに体の切れなどで見せる動きの部分は辛い。だがその分、義平次に追い詰められていく団七の心理を丁寧に見せ、様々な見得もきっちりと決めた。

歌六の三婦が良い。情に篤く、気っ風の良い親分肌の風情を粋に見せた。
段四郎の義平次も、金に汚い、情け容赦のないごうつく爺ぶりをこれでもかと言うほどに見せつけた。殺しの場では泥だらけになるし、大変な役だよねえ。
芝雀のお梶が律義なおかみさんの様子でぴったり。団七と徳兵衛の間に割ってはいるところでは小気味良い様子。
福助のお辰は、前回よりはましだが、まだ色気を振りまきすぎというか、しっくり来ない。粋と言っても芸者じゃないんだから。三婦に「おまえさんの顔に色気があるから」と言われてビックリするところなど、ほとんどコメディになってしまって笑止。
錦之助の磯之丈がいかにも金と力のない色男がぴったり。この磯之丈って、自分のせいで周りが大変なことになってるの全然わかってないよね。
孝太郎の琴浦に芸者らしい色気と可愛さがあって上々。

三、色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)
  かさね                  
かさね  時 蔵                 
与右衛門  染五郎

筋は南北らしいドロドロ因果物語だが、それを清元で舞踊に仕立ててしまうところが歌舞伎らしい。にしてもこの「色彩間苅豆」という外題はどういう意味なんだろう。

時蔵は前半では美しい腰元らしいしっとりとした様子で、上品なクドキを見せてさすがに綺麗。それが後半、祟りを受けて顔が醜くなり与右衛門に真相を知らされて様子が一変、元が美しいだけに形相の変わった顔に凄味があり、悲しくも恐ろしい、殺されてもただでは死なない女の情念の深さを見せた。それでも嫌らしさがないのはこの人らしい。

染五郎は黒の着付けがすっきりと似合って、いかにも色悪という、美しさと酷薄さがあり上々。特に最後の連理引きで花道を引き戻されるシーンは、綺麗な型と動きを見せてなかなか立派。
今月は昼夜とも染ちゃん大当たり。

でもこの演目、最後の最後で、ぱっと明かりが点くってどうなんだろう。陰惨な場面で打ち出しにしないという配慮かもしれないけど、舞踊とは言え怪談なんだし。なんか、「えっ?」って感じ。立ち回りの途中で「本日はこれ切り~」って言うのと一緒だなあ。慣習なんだろうか。


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nori

 仁左・吉の共演を私も楽しみました。直接のからみが多くないのが心残りでしたが。会議で東京に行く時に限って、吉右衛門が出演しているので、うれしい限りです。今回は若手の役者にそれぞれ新しい魅力を発見できたようでよかったです。苅豆というのは、常総市羽生町の辺りは水田に適さないため、大豆を植えていたことに由来するとのことです。凶器の鎌も豆草を刈り取る鎌ということらしいです。
by nori (2011-06-28 21:53) 

mami

noriさん、
吉仁左、本当にもっともっと観ていたい!と思うくらい素敵でしたね~。惚れ惚れしましたわ。
「苅豆」ご教授ありがとうございます!歌舞伎の外題って不思議なのが多いですね。まず読めないし。でも解説されるとちゃんと話と繋がってるんですよねえ。
by mami (2011-06-28 22:49) 

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