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演舞場五月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

5月15日(日)

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今月の演舞場は、幸四郎と吉右衛門が、それぞれ昼夜に別れて通し狂言。まずは夜の吉右衛門の方を。

一、籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)
  発端 戸田川原お清殺しの場より  
  大詰 立花屋大屋根捕物の場まで              
佐野次郎左衛門  吉右衛門                  
八ツ橋  福 助               
立花屋おきつ  魁 春                   
九重  芝 雀                 
下男治六  歌 昇                 
盲の文次  錦之助                   
七越  高麗蔵                 
腹太弥七  松 江                
禿山の松蔵  種太郎              
初菊/娘お千代  壱太郎               
赤目の卯左吉  種之助                
土竜の石松  米 吉                   
お清  歌 江                
絹商人丈助  桂 三               
絹商人丹兵衛  由次郎                 
釣鐘権八  彌十郎                 
都築武助  歌 六               
佐野次郎兵衛  段四郎               
立花屋長兵衛  東 蔵            
高松安之進妻おとし  秀太郎                
繁山栄之丞  梅 玉                
立花屋お駒  芝 翫

普段上演されるのは吉原の見染めの場から八ツ橋殺しまで。今回は発端とそれに続く場がついて、次郎左衛門が父の悪行のために祟りで醜い顔になり、また妖刀籠釣瓶を譲られたわけが明らかになる。確かに話の筋が通るので、わかりやすい。
そして最後には、八ッ橋を斬った次郎左衛門と、栄之丞らの立ち回りがついて幕になる形。

発端、序幕はどうしても端場で話の説明的な場になってしまいがち。今回も、まあ確かにわかりやすくはあるけれど、無理矢理くっつけた感がぬぐえない。それが何とか見られるようになったのは、端場にはもったいない、段四郎、歌六、秀太郎と言った重量級の役者が顔をそろえたおかげ。でも逆に、この顔ぶれでこれだけの幕とはもったいない気がしてしまった。他の若手も含めて、この顔ぶれで何かもう一演目見せた方が客は喜ぶだろう。

壱太郎の武家娘が可愛い~。でも歌六が許嫁ってちょっと可哀想(苦笑)。
錦之助らの悪党も普通だったら脇役がやりそうな役で、ちょっともったいない。播磨屋のぼんぼん達が、汚い盗賊のなりで精一杯悪ぶってるのが、観ていて可笑しくて仕方なくて、筋と関係なく笑ってしまった。ごめんね種ちゃん。

見染めから縁切りまでは通常通り。
吉右衛門の佐野次郎が、発端から付くことで、その義理堅い実直な性格がよく出て、それだけに思い込んだら一途で、八ツ橋に熱を上げ周りが見えなくなり、有頂天になったあげくに縁切りされて奈落の底に突き落とされ、恨みから八ツ橋を斬り殺すに至る心の変化を鮮やかに見せた。
何度見てもこの縁切りの場は胸が痛む。次郎左衞門はもちろん可哀想だが、八ツ橋にもそうせざるをえない事情があり、どちらも哀れで切ない。
吉右衛門は前半で人の良さを強く見せた分、打ちひしがれた姿が余計に見る影もない風情となり、「袖なかろうぜ」以下の台詞が切々。
殺しの場面で、盃を八ツ橋に与えて手を取るところから一気に目つきが変わり、声も低くなって怒りをぶつけて一刀に斬り殺す、その変化の凄味は、八ツ橋でなくともぞっとするほど。ああ、怖かった。
他にもこの役をやる人はいるが、この落差の大きさがいちばん出るのは吉右衛門のような気がする。

福助の八ツ橋ももう何演目かとあって、また吉右衛門相手でもあってか神妙な出来。全盛の花魁らしい美しさ、華やかさ、色気が十分で、次郎左衛門が魂抜かれるのも無理はない。見染めでの次郎左衛門への笑いが、私が観た日にはやや間が早い気がした。もうワンテンポおいて、たっぷり見せてもらいたい。
縁切りでは、どうしようもない立場に追い込まれた苦しさと次郎左衛門への申し訳なさを隠して、傾城の意気地を強く見せながら、遊女の身のままならなさへの嘆きをのぞかせて上々。

栄之丞は梅玉で、悪人ではないのだが、女に貢がせて日を送り、それを何とも思わないヒモ男の卑しさを二枚目の顔に隠した姿が上手く、はまり役。権八にそそのかされて八ツ橋の所へ出かけようと着替えをする、その仕草にいらだちが見えて唸らされた。

芝雀の九重が、心優しい様子がぴったり。八ツ橋に去られた次郎左衛門を気遣う様子に情があり、今回殺しの場の前に付いた、八ツ橋とのやりとりでも、朋輩を気にかける温かな人柄がにじんで、この芝居唯一の清涼剤のような役割。佐野次郎も八ツ橋じゃなく九重に惚れていたらねえ、と思わずにいられない。
歌昇の治六も実直な下男の味が十分ではまり役。
見染の前に佐野次郎達を助けるのは、普通茶屋の主人だが今回は特別に女主人で芝翫が出たが、声が出ていなくて心配。

大詰めでは本水を使うとのことだったので、まさか吉右衛門が水をかぶるのか!?と心配したが(だって、若者ならいざ知らず)さすがにそれはなく屋根に水を流しただけ。

発端から大詰めまで見て、話の筋は通ったけど、だからといって良い本かというとそうでもない。重箱の隅をつつけば矛盾も多いし。やっぱり普段やる場面だけで充分かな。

二、あやめ浴衣(あやめゆかた)
若い女  芝 雀                  
若い男  錦之助                  
若い男  歌 昇

籠釣瓶のいささか暗い殺しの場面で打ち出しにするのはさすがにあんまりと言うことで、最後に短い踊りが付いた。一面のあやめの背景の前で、艶やかな衣装の三人が小粋に踊る楽しい一幕。季節もぴったり。「浴衣」となっているが衣装は浴衣じゃなくてもっときれいなのだったよ。
芝雀は元禄風の鬘も似合い、楚々とした色気があって美しい。
錦之助と歌昇も颯爽とした味。ただ正直言うと、歌昇はこういう踊りにはやや持ち味が地味。
口直しにはちょうどよく、おかげで後味よく席を立てた。


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