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四月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

4月18日(月)

都心ではもう桜も終わってしまいましたね。今年はちゃんとしたお花見に行く暇がありませんでした。どっかの知事のせいではありませんよ、時間がなかっただけ。それでも劇場には行くのです。

一、お江戸みやげ(おえどみやげ)
お辻  三津五郎                  
文字辰  扇 雀                   
お紺  孝太郎                
鳶頭六三郎  亀 鶴                
角兵衛獅子  巳之助                 
女中お長  右之助                 
市川紋吉  萬次郎                 
阪東栄紫  錦之助                  
おゆう  翫 雀

初見。川口松太郎作で1961年初演。とは言え、青果もののような理屈臭さはなく、ドタバタ後しっとりの展開で楽しめた。
今回のミソは立ち役の三津五郎が主役の後家お辻を演じること。もちろん初役。相棒のおゆうも翫雀と立ち役同士のコンビだが、翫雀はたまに女形もやるし、コメディセンスの良い人なので安心して観ていられるが、三津五郎の方は踊り以外で滅多に女形はやらないからどうかな?とちょっと見る前は心配。
出てきたときは、二人ともほとんど化粧っ気のない顔に女の鬘なので、一瞬誰かと思ってしまった(笑)。でもさすがに芝居達者な二人らしく、すぐに違和感はなくなった。

三津五郎はけちで真面目なお辻を至極真面目に演じていて、変に笑いを取ろうとしていないのがかえって良かったかも。お辻が酒を飲んで気が大きくなり、役者の栄紫に岡惚れして座敷で対面して恥じらうところが微笑を誘う。栄紫とその恋人の苦境を救うのに有り金をはたいてしまい、栄紫から感謝の印に渡された片袖を「お江戸みやげ」と抱きしめる幕切れが切なくも心温まる。

おゆうの翫雀も気のいい田舎の後家という雰囲気が良く出て、お辻とのやりとりの端々にユーモラスさがにじむのはこの人らしい巧さ。でも今回決してやり過ぎず、割とお行儀よいでき。

錦之助の栄紫が人気役者というはまり役。嫌味のない二枚目ぶりが似合い。
孝太郎のお紺は可愛げはあるが、なんだかちょっとぶりっ子風なのがいまいち。
扇雀が金にうるさいお紺の養母で、憎たらしいキツイ女の様子が上手い。
巳之助、右之助、萬次郎ら脇も達者で思ったより楽しめた。

とは言え、観ながら、何も三津五郎がこういう役をしなくてもなあ、と言う気はした。せっかく大歌舞伎の主役なのに、こういう変化球みたいな役じゃなくて、持ち前の正統派二枚目の役でも何でも、もうちょっと大きなお役をやってほしい。この間テレビでやってた忠信でも、宗五郎でも、勘平でも、新三でも、この人に良さそうな役はいくらでもあるだろうに。どうも三津五郎って損な役回りな気がする。團菊祭に出ても刺身のつまっぽい扱いだしなあ。もっと芯で活躍してほしいんだが。

二、一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
  檜 垣   
  奥 殿             
一條大蔵長成  菊五郎                 
常盤御前  時 蔵                
八剣勘解由  團 蔵                   
鳴瀬  家 橘                   
お京  菊之助                
吉岡鬼次郎  團十郎

菊五郎の大蔵卿を観るのは二度目。前は一昨年だったかの顔見世。その時と比べると、今回はなんだか全体にまったりとして緊張感が薄く、退屈に観じてしまったのは何故かなあ。
檜垣でもあほうぶりもおとなしめというか、前はもっと笑えるくらいやっていたように思うが今回はさらりとした感じ。なので、奥殿で本性を現したときの落差が際立たず面白くない。終盤でまた阿呆に戻ったりするのも控えめ。と言って腹で見せて卿の内面の苦悩を感じさせるというわけでもなし、なんだか欲求不満に終わってしまった。

時蔵の常磐は絶世の美女という役にふさわしく、品のある美しさで、本心を明かすクドキに悲しみがあり上々。
團十郎の鬼次郎はニン。きっぱりとした忠義一途の武士の風情。
菊之助のお京も凛とした女房の様子。

  恋飛脚大和往来
三、玩辞楼十二曲の内 
封印切(ふういんきり)
             
亀屋忠兵衛  藤十郎                 
傾城梅川  扇 雀              
丹波屋八右衛門  三津五郎               
井筒屋おえん  秀太郎               
槌屋治右衛門  我 當

藤十郎の忠兵衛は何回も観ていて、正直もういいよ、と言う気もしないではない。でも観るとやっぱり凄いなあ、と感心させられる。なりきってると言うより、藤十郎が忠兵衛として近松のいた大坂から東京へタイムスリップしてきてるような。(変な表現ですみません)仁左衛門とか勘三郎とか、他にも忠兵衛をやる人はいるけど、文楽の本業の味を感じさせるのは藤十郎だけだ。他の人のはなんだか格好良すぎる。忠兵衛なんて、ほんとにダメ男なんだから。ふにゃふにゃして見栄っ張りで、、、こんな男に惚れた梅川も気の毒やわ、と思わせてくれる藤十郎の忠兵衛。全編、ずるずるじゃらじゃらした台詞ばっかりで、ほんとに意味のあることなんて、最後の梅川への「死んでくれ」くらいしかないんじゃないかと言うほどだが、そのじゃらじゃらさをこれだけ徹底して楽しませられる役者なんて、きっともうこの先出ないだろうと思うと、この舞台を目に焼き付けておきたいと思いながら観ていた。

今回、二階から忠兵衛が駆け下りてくるときの勢いが、以前に比べるとなかったように感じた。そりゃあの狭くて段差のある階段を80近い爺さまがダダダッと降りてくるなんて、普通じゃ考えられないんだけど、これまでは当たり前にやってらしたんだよね。今だって他の人に比べれば遜色あるほどでもないんだけど、前と比べると、あ、山城屋さんもさすがにお歳かな、とちょっと寂しく感じた。

それから、幕切れの花道の引っ込み、おえんに見送られて歩いて行くのが、すご~く長くかけていた。前から長かったけどこれほどじゃなかったのでは。もう揚げ幕近くまで行って、ご丁寧に転んだりしてたし(もちろん、わざとだと思うけど)、いや、それ、二階のお客さん見えてませんから。見送る秀太郎さんも大変だわ。

これだけ、もう一人別次元に行ってしまった山城屋の忠兵衛に対し、悲しいかな、今相手ができる梅川がいない。今回は息子の扇雀だが、全然ダメ。大坂の遊女らしいはんなりした色気や薄幸の女という味が見えない。「河庄」の小春をやった時もだが、心持ちが強すぎる。江戸の芸者とは違うんだけどなあ。この人はこれから上方の女形として本気でやっていく気があるんだろうか。なんか、山城屋さんも孫の壱太郎ちゃんの方に期待をかけてるような気がするんだけど……。

三津五郎の八右衛門、周りが上方役者の布陣の中に一人江戸っ子が混じっての奮闘だが、上方言葉も器用にこなし、憎たらしく忠兵衛を挑発する様子が上手い。ほんとに芸達者な人だ。

おえんは秀太郎、茶屋の女将らしいさばけた様子と粋さがあり、昔の色香もまだ残る風情がさすが。前は梅川やってた人だからこそ、と言う味わいがあるよね。
我當の治右衛門も情け深い旦那さんで男気もあり、と言う様子が上手い。吉田屋もそうだが、この松嶋屋兄弟が脇を固めてくれると本当に気持ちよく観ていられる。

と言うことで、結局昼の部は封印切がいちばんの見物。
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