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国立劇場10月歌舞伎公演 [舞台]

10月18日(月)

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10月も半ばを過ぎてやっと東京の歌舞伎公演へ足を運んだ。
今月の国立劇場は、吉右衛門の主演で青果ものを二つ。国立劇場はよほど吉右衛門に新歌舞伎をやらせたいようだ。ここのところほとんど毎年だもの。実を言うと青果も新歌舞伎も苦手なので、他の通し上演もやってほしいよな、とは思う。(何で12月は幸四郎で「忠臣蔵」なのよ…。)

一・天保遊侠録
吉右衛門の勝小吉、染五郎の庄之助、芝雀の八重次、東蔵の阿茶の局、梅丸の麟太郎

勝小吉と麟太郎(後の海舟)親子を扱った作品としては子母沢寛の「父子鷹」があって、小説は読んだことがないが昔幸四郎と染五郎親子でテレビドラマ化されたことがあり、その記憶がうっすらとある。貧乏御家人で無頼漢の父と出来の良い息子という組み合わせが面白かったが、この芝居はそれよりずっと前の麟太郎がまだ子供の頃の設定。

吉右衛門の小吉が小気味よく、べらんめえな口調がちょっと鬼平を思わせて楽しい。小身者の悲しさから、へりくだって我慢に我慢を重ねながらもついに切れてしまう様子が無理からぬと思わせる運びで、勢いと気っ風の良さを見せる。
それが麟太郎のことは溺愛していて、出来の良い息子に頭が上がらず、手元から離したくないのに結局自分の情けなさからお城勤めに出さざるをえない悲しさ辛さに、身を切られるような思いをする、子煩悩振りが泣かせる一方で、吉右衛門の駄目パパ振りなんて他の役じゃ観られないから、可笑しかった。

染五郎の甥庄之助は、醜男という設定なので、おかしなメークで最初一瞬誰かわからなかった。粗忽者で叔父より先に上役たちに腹を立ててしまうが、気の良い真っ直ぐな青年と言う様子がよく出た。体を張っての喧嘩乱暴場面もあって、ご苦労様。

芝雀の八重次、芸者役なんて珍しいが、色気と可愛さ、芸者らしいしゃきっとした感じなどがあってさすがに巧い。そして何より、小吉へ腹を立てながらも忘れかねた思いをのぞかせる様子に優しさがにじむのがこの人らしい。幕切れの二人の様子が何とも良い味。

東蔵の阿茶の局が貫禄があり、また懐の深い様子があって存在感たっぷり。
そして梅丸の麟太郎、可愛くて頭が良くて父親思いで、泣かせてくれるわ。いちいち台詞が大人を食ってる麟太郎だが、とても素直な感じで憎めない。こんな子が後年あのべらんめえな海舟になるのかあ。梅丸君は、やっぱりお師匠さん(梅玉)の教えが行き届いているのね、行儀が良くて立派。

二・将軍江戸を去る
第一幕      江戸薩摩屋敷
第二幕 第一場 上野の彰義隊
     第二場 同 大慈院
     第三場 千住の大橋
吉右衛門の慶喜、歌六の勝麟太郎、歌昇の西郷隆盛、染五郎の山岡鉄太郎、東蔵の高橋伊勢守、松江の村田新八、種太郎の中村半次郎

第一幕薩摩屋敷は初見。江戸城総攻めを前にした、勝と西郷の会談を描く。
歌昇の西郷がいかにもメークと台詞回しで西郷らしい雰囲気で、西郷の心中を丁寧に表現。とんでもないくらい長い台詞がいっぱいで、淀みなくこなしているだけでも立派だが、西郷の大きさと実直さ、戦を避けようとする崇高さを見せて圧巻。

対する歌六も、幕府側の人間ながら、腹を割って西郷に対する懐の深さ、誠実さを見せてさすがに立派。
松江と種太郎が血気にはやる薩摩藩士で、ややこしそうな薩摩弁をこなしていた。種ちゃんがすっかり大人の役で立派。

第二幕は単独でもたびたび上演される。せっかく勝と西郷のおかげで無血開城になったのに、やっぱり戦になっちゃったのかと思うとちょっとむなしい。

第一場では殺気立つ彰義隊員と、慶喜の元に駆けつけた山岡の対決。彰義隊長の由次郎が無骨で一本気な雰囲気があり上手い。

第二場は慶喜と高橋、山岡の台詞の応酬。
吉右衛門が憂いと気品のある最後の将軍慶喜を堂々と、また悲哀を込めて見せて圧巻。尊皇の心を持ちながらも逆賊扱いされる慶喜の苦衷と、上に立つ者の孤独をひしひしと感じさせる。怒りや哀しみを緩急、高低をつけたせりふ回しで聞かせて、青果の台詞の美しさを余すところなく表現してさすがに立派。

染五郎の山岡も、一徹さと命をかけて慶喜に進言する強さを、こちらも必死懸命な台詞で聞かせた。こちらは緩急と言うより、ずっと一本調子なのだが、まあそういう役柄だから。染五郎はのどが強くない人だが、庄之助もこれも怒鳴るような台詞が多くて、千秋楽まで大丈夫かちょっと心配。

東蔵の高橋伊勢守が落ち着いた高官の風情。ほんとに何でもやる人だなあ。

第三場はいよいよ江戸を発つ慶喜と江戸の人々の別れ。ここでも吉右衛門が堂々と別れの台詞を歌い上げて魅せた。

青果の台詞って、下手をするといま聞くとちょっとクサイ気もするが(苦笑)、吉右衛門にしろ仁左衛門にしろ、ちゃんと節回しを研究して言ってくれると、やはり聞き惚れて酔うような気分になるから不思議。
でも第二場の山岡の勤王と尊皇の違いとは、なんていう話の理屈っぽさはやはり聞いていて閉口する。よっぽど忠義や孝行といった言葉の方がすっと入ってくるんだもの。


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