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秀山祭九月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

9月21日(火) 新橋演舞場

もうお彼岸なのにやっぱり暑い。この日は東京でまたまた猛暑日を記録。劇場に着いたら汗だくでした。
その前に新装オープンした三越へ立ち寄って、お弁当を物色。新しい店がたくさん入っていて目移りしてしまいました。

今月はお待ちかねの秀山祭。初代吉右衛門の芸を引き継ぐ当代が座頭を務める、すっかり9月恒例となった興行で、今回は仁左衛門がつきあうのが話題。

秀山祭佐吉.jpg

一、月宴紅葉繍(つきのうたげもみじのいろどり)
在原業平  梅 玉             
小野小町  魁 春
平安時代の王朝風の衣装に身を包んだ二人がゆったりと踊る一幕。梅玉はこういう公達の衣装が本当によく似合う。踊りとして特に見応えがあるというのではなく、雰囲気で見せる演目。魁春も品の良い様子で、目の保養といったところ。
でも今月、魁春さんはこれだけだし、梅玉さんも夜も踊りだけで声聞いてないわ~。ま、来月わんさか台詞のある頼家だから良いか。

二、伊賀越道中双六
  沼津(ぬまづ)
呉服屋十兵衛  吉右衛門               
お米  芝 雀             
池添孫八  染五郎          
茶屋女房おくる  吉之丞             
旅人女房  歌 江              
旅人夫  桂 三            
荷持安兵衛  歌 昇             
雲助平作  歌 六

吉右衛門、歌六、芝雀でのこの演目は、去年の巡業で拝見しているので二度目だが、本公演では初めて。
吉右衛門の十兵衛は、前半の特にお米に一目惚れしてのぼせてしまうあたりが、ちょっとニンじゃないかな~、という感じもするが(苦笑)、平作が実父とわかってからが真骨頂、義理と人情の板挟みに悩む十兵衛の悲しさつらさを的確に描いていく。親と妹に金をやりたいが受け取らないだろうと思案する様子、家を去り際、お米に親孝行するように言う時の引き裂かれるような思い、などをさすがにしっかりきっちり見せる。
幕切れの千本松原の場での、互いにそうと知りながら父子と名乗れない二人のやりとりが切なく、自分を犠牲にして死にゆく父への最後の孝行に、父と妹が探す敵の行方を教える言葉に万感がこもり胸に迫る。
律義で情のある、商人とはいえ男気のある十兵衛でさすがに立派。

歌六の平作も、前半ではいささか小汚い、しかし正直者の老爺を多少コミカルさも交ぜながら見せて上手い。
十兵衛の荷物を持とうとして重くて持ち上がらない様子や、客席を通っての道中でのやりとりでは、ほんのりとした笑いを誘う。喜劇的な場面でも爆笑という風にはならないのが播磨屋流というところか。
夜になって、お米が十兵衛の印籠を盗もうとしたと知って、娘の気持ちを悟るところが秀逸で、娘を叩くふりをしながら自分のふがいなさも同時に責めている父の愛情の深さがありあり。
そして幕切れ、十兵衛が敵の落ち延びる先を教えてくれそうにないと感じて、思い定める一瞬の表情の変化。自らの命と引き替えに娘のために教えを請う思いの深さ。存分に泣かせてもらった。歌六さんはこういう情の深い役が本当に味があって上手い。

芝雀のお米も、もとは吉原の傾城という艶やかさを残しながら、老父に尽くす心優しい娘で、一方夫のことをずっと気にかけている様子が素直に伝わるのが良い。健気でいじらしいお米は芝雀さんにぴったり。

荷持ちの安兵衛は歌昇。実直な使用人の様子が上手い。
孫八に染五郎がつきあって最後を華やかにした。
発端の場の茶屋のおかみさんの吉之丞、旅の夫婦の歌江、桂三らが、なんてことないのに雰囲気があるのがさすがに脇まで目の届いた舞台。

劇中、歌六、歌昇とが屋号を播磨屋に戻すことの口上が挟まる。二人以上に吉右衛門がニコニコととってもうれしそうだった(笑)。

三、江戸絵両国八景
  荒川の佐吉(あらかわのさきち)
荒川の佐吉  仁左衛門           
丸総女房お新  福 助          
仁兵衛娘お八重  孝太郎            
大工辰五郎  染五郎              
卯之吉  千之助            
白熊の忠助  錦 吾            
あごの権六  由次郎            
極楽徳兵衛  高麗蔵           
隅田の清五郎  錦之助           
成川郷右衛門  歌 六           
鍾馗の仁兵衛  段四郎           
相模屋政五郎  吉右衛門

これって青果の作品だったんだ。やくざものだから長谷川伸かと思ってた。でも言われてみれば、序幕の郷右衛門の台詞とか変に理屈っぽいかも。

仁左衛門の佐吉は、もうなんにも言うことありません!と言う大当たり。
真っ直ぐで心優しい、子煩悩な佐吉をなんのてらいもけれんもなく演じてこれだけ様になる役者なんて、他にいそうにない。時代物の二枚目とは違うこういう型がありそうでない役は、下手にやられると観る方が照れてしまいそうだが、仁左様だとぜんぜん自然。役とご本人がもう一体化してるように見えてしまう。同じ人が油地獄の与兵衛とかやるんだよねえ。役者って怖いわ(笑)
それにしても仁左衛門ってほんとに子供好きなんだろうな。赤ん坊の人形抱いてるときでさえ、本物じゃないかと思うくらい可愛くてしょうがないって顔するんだもの。でも千之助ちゃんへのお稽古は厳しいらしいけど。
終盤、卯之吉を取り戻しに来たお新への述懐に心がこもって泣かせる。すべてを捨てて旅に出る、まさに絵に描いたように格好良い男ぶりの幕切れが、すがすがしく胸を打って秀逸。

当初予定の左團次が休演で、郷右衛門は歌六。先ほどの平作とは打って変わって凄味のある剣客の風情。全く幅の広い役者さんだ。
佐吉の親分は段四郎。序幕では貫禄を見せながら、郷右衛門に斬られて落ちぶれていく男の悲しさを見せた。

孝太郎のお八重が、気が強く気位の高い娘の様子がよく出、終幕で改心して出てくるときとの差をよく見せた。でもこのお八重って、確かに父親と卯之吉を見捨てて出て行ったのは薄情だけど、好きでもない佐吉と一緒になって姉の子を育てろって言うのは可哀想じゃないか、とは思う。それも大店や大身の家の跡を守るというならいざ知らず。そりゃないわ、と自分でも思うもんね。
福助のお新は辛抱役。ここでは神妙な出来。

染五郎の辰五郎も、気の良い、心根の優しい男の様子がぴったり。

そしてなんと言っても吉右衛門の相政が、懐の深い、貫禄たっぷりな大親分の存在感で舞台をぐっと大きくした。もう始めに、駕籠から顔をのぞかせた瞬間から「待ってましたっ!」と声をかけたくなる雰囲気(笑)。
卯之吉を丸総に渡すように佐吉を諭す場面も、佐吉の心を十分に受け止めた上で卯之吉の将来を思ってという温かさが無理なく伝わる。実はこの場面、普通は佐吉の台詞を聞いてぼろ泣きなんだけど、今回はそれを聞いてる相政の顔に半分目と意識がが行っていたものだから、いつもほど泣かなかったの。仁左様、ごめんなさい。でもこんな大きな相政にがっぷり組むことが出来たのは仁左衛門だからこそ。先代権十郎さんの相政も良かったけど、この組み合わせで観られて幸せ。

四、寿梅鉢萬歳(ことぶきうめばちまんざい)
萬歳  藤十郎

二つ長い狂言の後で、観客もお疲れモードの中での上演で藤十郎にはちょっと気の毒。せめて「沼津」と「佐吉」の間にやるわけにはいかなかったのかしら。正直言って、集中力切れているので、これと言うほどの感想はないのだが(苦笑)、相変わらず藤十郎さんはお元気そうでおきれいで、華やかな色気を振りまいていたのは確かです。
今月、人間国宝3人とも踊りだけなのね。ちょっと物足りない気もするけど、この狂言立てじゃ出る幕ないか……。

でも終演が4時20分くらいと言うのは、さすがに昼の部、長すぎ~。


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nori

 秀山祭の吉右衛門と、仁左衛門の組み合わせは豪華でしたね。昼の部をみたかったのですが、夜の部しか見られませんでした。東京の出張のついでに見るので夜の部しかみられないのが残念です。レポートを読ませていただいて、私が気がつかなかった視点を楽しんでいます。関西での歌舞伎興行も多過ぎて、なかなかいけませんが、南座の顔見世は楽しみです。
by nori (2010-09-30 22:35) 

mami

noriさん、こんばんは。
今年の秀山祭は本当に豪華で堪能させていただきました。播磨屋も松島屋も当たり役でどれも見応えがありましたねえ。夜の部だけでも十分泣かされました。
関西も今年は歌舞伎が多いですね。来月は私も平成中村座に参ります。
by mami (2010-09-30 23:37) 

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