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二月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

2月22日 歌舞伎座

この日の昼は、会社の社員の食事会が銀座の某有名レストランであり(福利厚生行事。社員旅行みたいなもの)、幹事の一員だったのでお食事は美味しかったけれど、ちょっとお疲れモードで劇場へ。

一・壺坂霊験記
三津五郎の沢市、福助のお里
文楽ではよくやるが、歌舞伎で観るのは初めて。まあ、一言で言うと抹香臭いというか、信じるものは救われる、と言うような話で現実離れしている。文楽ならまだ曲がよく書けているから聞いて面白いという部分があるが、歌舞伎ではどうもすんなりこちらに響いてこないもどかしさがある。
役者は悪くはない。特に三津五郎はさすがに沢市の苦悩、お里への申し訳なさなどを丁寧に描いているし、福助もこの人にしては行儀良く、貞女の鏡のようなお里の健気さを出している。だが例えば、戻ってきたお里が沢市が身を投げたと知って嘆くところも、文楽なら人形が狂乱する様子が見所になるが役者ではそこまで大袈裟に出来ないから、後の生き返った場面での狂喜乱舞との対比もいまいち出ない。
観音様も大人がやっては非現実的なのか子役(玉太郎)がやるが、台詞が幼くて神々しさも感じられない。
せっかく三津五郎と福助が今月これだけの出演なのに、この演目にする必要があったのかなあ、と残念な気がした。

二・高坏
勘三郎の治郎冠者、橋之助の高足売り、彌十郎の大名、亀蔵の太郎冠者
これは文句なしに勘三郎の軽妙な踊りが楽しめる演目。後半の高足(下駄)を履いてのタップダンスみたいな踊りが、難しいのかどうか素人には判らないが、こういう愛嬌あふれる役は勘三郎は本当に上手い。橋之助の高足売りとのやり取りも可笑しく、肩の凝らない一幕。

三・籠釣瓶花街酔醒
勘三郎の次郎左衛門、玉三郎の八ツ橋、仁左衛門の栄之丞、勘太郎の治六、彌十郎の権八、我當の長兵衛、秀太郎のおきつ、魁春の九重
勘三郎と玉三郎のコンビでのこの演目は私は初見のような気がする。襲名公演でもやったのだが、確か見逃している。
勘三郎以外では吉右衛門と幸四郎が主に演じている次郎左衛門だが、当然のことながらどちらとも勘三郎のは違う味がある。
いちばん違うと思ったのは、見染めの場の幕切れ、八ツ橋を見送って呆然となって「宿へ帰るのが嫌になった」と言うところ。吉右衛門だと魂を抜かれてひたすら惚けたようなのが、勘三郎の次郎左衛門は目つきがとても好色そうというか、ただ美しいと思っただけでなく既に「あの女を抱きたい」と思っているというのがありありと感じられるようだった。それだけリアルというか凄みがあるというか。

以後の場面でもすっかり吉原に慣れてもう八ツ橋の身請けも決まった(と思っている)次郎左衛門の浮き浮きした様子から、縁切りで奈落の底へ突き落とされる姿まで、きっちりと見せていって立派な出来。強いて難を言えば、吉原でもう顔になっていても、そこはやっぱり「田舎のお大尽」、と言う野暮ったさが薄く、そうなると自分の容姿に対するコンプレックスもあまり感じられなくなってしまうような気がした。それがこの佐野次郎の人物造形の鍵だと思うのだが…。
大詰めでは、おきつら店の者達に至極愛想良くしておいて、八ツ橋と二人になって表情を急変させるところがさすがに上手い。狂気を感じさせる凄みがあって怖さを見せた。しかしあの場面、刀が桐箱のようなのに入っていて紐が掛かっているように見えるのに、あれでは八ツ橋に斬りかかる前に取り出すのに手間取って逃げられるだろうに、と思ってしまった。

玉三郎はさすがに周りを圧倒する美しさで魅せる。見染めの笑いも、比較的あっさりしたようでいて、しかし男一人の運命を狂わせるだけの魅力にあふれる。
栄之丞に次郎左右衛門との縁切りを迫られる場面では、恋人を失いたくない、されどお客も大事という遊女の切なさと戸惑いを見せ、縁切りの場では次郎左衛門の顔を見ずに冷酷に徹する強さを見せながらも、そうせざるをえない遊女の身を嘆く「つくづく嫌になりんした」という九重に向かっての最後の台詞に万感をこめた。

仁左衛門の栄之丞がさすがに二枚目の色男振り。そりゃこんな間夫がいたら次郎左衛門がいかに金持ちでも八ツ橋はなびかないわね~、と思わせる。でも嫌な奴なんだよね。自分だって散々次郎左衛門のおかげになってるくせに。そのくせ「納得づくなら別れてやっても良い」とかなんとか、勝手な男。

我當と秀太郎が理を心得た茶屋の主人夫婦の味があり上手い。
魁春の九重に心優しい風情があって、見ている方も慰められるよう。
勘太郎の治六に主人思いの実直な下男の風があって上々。

しかし何度見ても、次郎左衛門も八つ橋も可哀想だけど好きになれない、後味の悪い演目ではある。


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★とろりん★

mamiさま、

滑り込みセーフで千秋楽に間に合いました。籠釣瓶、見応えありましたよね。魁春さんの九重、本当に情があって心優しくて素晴らしかったです。
by ★とろりん★ (2010-02-26 21:17) 

mami

とろりんさん、こんばんは。nice!&コメントありがとうございます。
千秋楽に行かれたんですね。勘三郎も玉三郎もさぞ熱が入っていたことでしょう。
今月の勘三郎は、とてもきっちりしていて見直しました。やればできるんじゃん。

「籠釣瓶」の九重は得な役ですよね~。次郎左衛門も八ツ橋じゃなくて九重にしておけばあんなことにならなかったろうに、なんていつも思います(笑)。魁春さん、ぴったりな風情でしたよね。
by mami (2010-02-27 00:12) 

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