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壽初春大歌舞伎・昼の部 [舞台]

1月12日 歌舞伎座

歌舞伎座さよなら公演も後4ヶ月になってしまった。いやはや。
今日は雨のようなみぞれのようなものがちらつく寒~い日でした。

今年の初芝居は松竹座だったが、今日は歌舞伎座始(っていうのも変な言い方だけど)。松竹座の「忠臣蔵」に比べると、こちらはいかにも初春狂言らしいのが並んでいて、やっぱりお正月はこういう賑々しいのの方が良いなあ、と改めて思う。

ロビーに夜の部出演予定だった雀右衛門休演の張り紙があった。復帰の見込みはないのだろうか。現歌舞伎座の舞台にもう一度立ってほしかったけれど。

一・春調娘七草
橋之助の五郎、染五郎の十郎、福助の静御前
なんで曽我兄弟に静御前が絡むんだ?といつ観ても不思議な演目ではある。兄弟は「対面」の時と同じような扮装。静御前は赤姫のような着物で、三人がせり上がってくるとパッと華やかな雰囲気になって、一年の初めの舞台には相応しい晴れやかさ。

橋之助はきっぱりとした風情で隈もよく似合ってすっきりと美しいが、この人は荒事にはいささか線が細いような気がする。だから十郎でもできちゃうのよね。
染五郎は品良く柔らかみもあってニンにあった様子。
福助もはんなりとした美しさで、三人揃ってまずはめでたく目の保養と言った感じ。

二・梶原平三誉石切
幸四郎の梶原平三、魁春の梢、東蔵の六郎太夫、左團次の大庭三郎、歌昇の俣野五郎、秀調の呑助

幕開きは、浅葱幕が落とされると舞台に既に梶原も並んでいるという形。普通は後から花道を登場するのだが時間の都合だろうか。梶原の見せ場が一つ減ってしまうのに。また、途中で大庭に文を持ってくる奴も登場しないので、大庭は既に書状を受け取っていながら読んでいなかった、と言う変な設定になってしまった。

時代物になるとなんだか機嫌悪そうに演じていることの多い幸四郎だが(苦笑)、さすがにこの梶原は楽しそうにやっている。そりゃそうだろう、文武に優れ情もあり、と言うこの役が面白くないなら役者なんてやらない方が良い。
幸四郎はいかにも捌き役と言った風情がよく似合って、大庭や俣野とのやり取りに風格があり、六郎太夫や梢には情けある様子を見せてさすがに上々。
ただ、終盤六郎太夫親子と三人だけになってからの物語や石切の場面ではいま一段の愛嬌がほしいところではあり、こういうある種の馬鹿馬鹿しさのある時代物には理屈を越えたおおどかさが必要で、これは「リアルな芝居がモットー」みたいな幸四郎(苦笑)にいちばん不足しているところだろう。

東蔵の六郎太夫はきちんとした出来だが、この役の性根としてもう少し無骨さのようなものがあっても良いか。いささか軽い味だった。
魁春の梢は本役。健気で楚々とした雰囲気がぴったりで、家から戻ってきて父が縛られているのを見てのクドキに必死さがあって魅せた。
左團次の大庭に貫禄があり、歌昇の俣野に乱暴さと軽率な味があり可笑しい。
秀調の呑助というのはニンではなさそうだが、下手に受けを狙わず丁寧に。

いつもこの演目で不思議なのは、梶原方の朋輩の大名には今回も種太郎、宗之助ら中堅の役者が並ぶのに、大庭側は脇役なこと。台詞の量とか同じ位なんだけどねえ。今回は冒頭の二派の争いみたいな場面がカットされていたので、あまり見せ場がなくて気の毒だった。

三・勧進帳
團十郎の弁慶、梅玉の富樫、勘三郎の義経、友右衛門・高麗蔵・松江・桂三の四天王

この一年で3回目の「勧進帳」である。「さよなら公演」で本家本元の弁慶を出さないわけに行かなかったのだろうが、さすがに「また?」という気もする。
團十郎の弁慶、まさに正攻法の正統派、悪かろうはずもない。柄の大きさ、風格、懐の深さ、どれを取ってもさすがに立派。ある意味異様に力の入っていた播磨屋や、我が道を行く高麗屋に比べて、「これが本家の弁慶」と言わんばかりの直球勝負。しかしその手慣れた雰囲気がややもすると単調に思われなくもない、と言うのは観客の我が儘というものか。酒を飲むところの愛嬌なんかはこの人一流なんだけど。

梅玉の富樫もさすがに手に言った風情で、智と情のある能吏の様子がぴったり。
勘三郎の義経に品と憂いがあり行儀のよい出来。

四・松浦の太鼓
吉右衛門の松浦侯、歌六の其角、梅玉の大高源吾、芝雀のお縫

数ある忠臣蔵外伝の中でもとびきり賑やかで面白い演目。
松浦侯といういかにもお大名のお殿様らしい無邪気さと我が儘さのある人物を吉右衛門がおかしみをもって演じていてさすがに上手い。コロコロ気分の変わる殿様で、お仕えする家臣たちは大変。其角が源吾に羽織をやったと聞いて途端に不機嫌になり、ほっぺた膨らまして「馬鹿目が」と言ったり、そのくせ其角の発句に源吾がどう付けたか気になって仕方がない様子がユーモラスで、可笑しい。そして聞こえてきた陣太鼓に大喜びする様子など無邪気な可愛さがあって、もう本当に惚れ惚れと見てしまう。普段とかく重い役が多い播磨屋の当たり役の中では珍しく手放しで楽しめる演目。(紅長さんはギャグで苦労してるのが見えちゃうからね)

梅玉の源吾に身をやつしても失われない武士としての品があり、其角に羽織をもらって「他家の紋を着るのは」と躊躇する思い入れに真情をちらりとのぞかせるところなどさすがに上手い。
歌六の其角に暖かみと情があり、俳人らしい飄々とした味わいもあって立派。
芝雀のお縫も腰元の楚々とした風情があってニンにあった味。

赤穂浪士の討ち入りの夜という設定からすると、師走に観たい演目ではあるけれど、まあ旧暦と言うことで(笑)、とにかく文句なしに楽しめて気持ちよく席を立てる打ち出しには最適な一幕。


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