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南座顔見世昼の部 [舞台]

12月1日 京都南座

初日に引き続いての観劇。二日目昼の部は祇園の舞妓さんや芸妓さんたちの総見の日らしく、一階の桟敷席にきれいどころがずらりと並んでそれは華やか。幕間ではロビーに並んでいて、いかにも京都花街といった風情。

一・佐々木高綱
梅玉の高綱、翫雀の子之介、秀太郎のおみの、東蔵の僧智山、愛之助の小太郎、梅枝の薄衣

岡本綺堂作の新歌舞伎。以前、我當の高綱で観たことがある。いかにも新歌舞伎らしい台詞劇。
弁舌の上手い梅玉にははまり役で、自分の悪行は悔いながらも過去の手柄にこだわり、報いられない恨みを綿々と引きずる武士の持って行き場のない怒りを上手く表現した。
翫雀に人の好い正直者の様子があり上々。
高綱を仇と狙い続ける姉おみのの、恨みで凝り固まった様子を秀太郎が好演。

しかし、同じように出家すると言っても、熊谷とは違い、悟りも無常感もない厭世からの高綱の出家で、観ている方としては今ひとつ同情する気も起こらず、なんだかなあ、の演目ではある。

二・一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
   檜 垣
   奥 殿
菊五郎の一條大蔵卿、時蔵の常磐御前、松緑の吉岡鬼次郎、菊之助のお京、吉弥の鳴瀬、團蔵の八剣勘解由

菊五郎でこの役を観るのは初めて。前段のうつけ振りと、後段での本性を顕わした姿との変化が見物の役だが、菊五郎は阿呆の様子が思ったより大人しく、例えば吉右衛門のいかにも天然といった面白さには今ひとつ及ばないきらいがあった。上品といえば上品なのだが、床几でブランコのように遊ぶところなどももうちょっと洒落っ気が欲しい感じ。なので、本性を顕わしてからはすっきりとした凛々しい風情なのだが、それとの落差がさほど大きくなくていささか物足りない気がした。

時蔵の常磐御前が美しく品があり、数奇な人生を送る女性の哀しさがあった。
松緑の鬼次郎は忠義一途な武士の凛々しい風情。
菊之助のお京も武家の女房らしいすっきりとした様子。
吉弥の鳴瀬に、大蔵卿に律儀に仕え、まるで乳母のような包み込むような暖かさがあって感心。

三・お祭
仁左衛門の鳶頭松吉

仁左衛門の当たり役の一つ。これもいろいろなヴァリエーションがあるが、今回は芸者などは出ず、絡みの若い者を相手にまさに一人舞台。すっきりとして粋でいなせな鳶の頭が本当によく似合う。踊りとは言っても、踊りの技術より、そういう粋な風情を楽しむ演目で、若い者との絡みも面白く、途中で花笠と棒で丸に二の字の松嶋屋の紋を見せたりする趣向も楽しかった。

四・封印切
藤十郎の忠兵衛、秀太郎の梅川、玉三郎のおえん、仁左衛門の八右衛門、左團次の治右衛門

藤十郎の忠兵衛は、花道の出からしてジャラジャラして意志の弱そうな、それでいて見栄っ張りで自意識過剰、という様子が良く出ていて、おえんや梅川とぐだぐだするのもなんだか子供のようで、まあこういう男だから後で封印を切っちゃうんだろうなあ、と変に納得してしまう。きっとハンサムで色男なんだろうけど、経済観念ゼロ、という困った男。梅川には可哀想だけど、こんな男に惚れたあなたもいけないのよ(笑)、と思っちゃうような男。
藤十郎はいつもながらこういう「どうしようもない男」が絶妙に上手い。

こういう濃い忠兵衛には、時蔵のようなさらさらした感じよりは、やはり秀太郎の上方らしいはんなりとしてまたちょっとねっとりした色気のある梅川が似合う。儚げでなんとも言えない可愛げがあり、また一途に忠兵衛に惚れている様子があって、最後に忠兵衛に事実を告げられても「三日なりとも夫婦のまねごとして死にたい」という健気さ哀れさを見せた。

仁左衛門の八右衛門は、雁治郎襲名公演以来。とても「ゲジゲジの八つぁん、油虫の八つぁん」には見えないが(笑)、テンポ良くまくし立てる台詞で忠兵衛を挑発していく様子に憎らしさがあってさすがに上手い。やはりこの場面は、上方同士でやると一層の面白さがあって、痛快ですらある。

玉三郎初役のおえんは、上方勢のベテランに囲まれてはさすがに分が悪いというか、まだ大坂のわけ知りの女将の風情までは出せていなかったが、八右衛門相手に悪態をつくところなど面白く聞かせた。思えば玉三郎は今月は昼夜とも啖呵切ってる役だなあ。
左團次の治右衛門に懐の深い旦那の風情。

最後は梅川を先に行かせて、忠兵衛だけがおえんに見送られながら花道を引っ込んでいく形。何度も何度も振り返り、これから先の運命におののきながら足をもつれさせて歩いていく忠兵衛と、何も知らないおえんの対比が切なさを助長する幕切れ。

しかし昼の部の打ち出しとしては、どちらかと言えば「お祭」を後にしてもらった方が晴れ晴れとした気分で席を立つことができたと思うのだが。それだけがちょっと残念。
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