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南座顔見世初日夜の部 [舞台]

11月30日 京都南座

當る寅歳 吉例顔見世興行
  東西合同大歌舞伎

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毎年年末恒例の南座での顔見世興行。歌舞伎座では11月公演を顔見世と呼ぶが、上方の人間としては単に「顔見世」と言えばやはりこの12月の南座を指す。これが始まるといよいよ年末だなあ、という気がしてくるのです。普段歌舞伎なんて興味のない人でも、南座にまねきが上がったと聞けば「ああ、もう師走だな」。いわば風物詩のようなものですね。思えば私が初めて歌舞伎を観たのも、この「顔見世」なるものを一度観てみたいな、と思ったのがきっかけでした。

今年の顔ぶれは、上方勢に主に菊五郎劇団が加わった形。そしてなんと言っても話題は仁左衛門の「助六」。これが見たくて吉右衛門も出ないのにわざわざ遠征したようなもの。

一・天満宮菜種御供(てんまんぐうなたねのごくう)
   時平の七笑
我當の藤原時平,彦三郎の菅原道真、進之介の判官代輝国、亀鶴の春藤玄蕃、竹三郎の左中弁希世

「菅原伝授手習鑑」を下敷きにした作品だが、初見。
謀反の疑いをかけられた道真に時平が同情する振りをしていたが、実は全て時平の策略で‥‥。という筋だが、見所としては外題にある通り、幕切れ誰もいなくなった舞台で独り時平が高笑いをするというこの場面に尽きる。

我當の時平は父譲りの当たり役で、前半では柔らかみのある公家ぶりにこの人らしい地が出て品があり上手い。眼目の「七笑い」も「うふふ」「あはは」と笑い分け、幕が引かれた後も高笑いが続くという洒落た構成。(だから幕が閉まっても席をすぐに立たないで下さい。)我當は声が良く響くのでうってつけ。
しかし、現在は我當以外に演じる人がいないようだが、先はどうなるのかちょっと心配な演目ではある。

彦三郎の道真に実直そうな人柄が出た。
進之介の輝国に誠実で爽やかな様子がありよかったが、今月もこれ一役では松嶋屋の御曹司としては寂しい。
竹三郎は珍しい三枚目。亀鶴が赤面の悪役できびきびした様子。

二・土蜘蛛
菊五郎の僧智籌実は土蜘の精、時蔵の源頼光、梅玉の平井保昌、菊之助の胡蝶、愛之助・権十郎・男女蔵・亀三郎の四天王、梅枝の巫女榊、團蔵・松緑・翫雀の番卒、梅丸の太刀持ち

菊五郎二年ぶりの土蜘蛛。音もなくするすると花道を出てきていつの間にか舞台にいる、その不気味さが良く出て立派。不気味な中にも、いかにも高僧のような雰囲気を漂わせ、一転正体を顕わしてからが大きく、見えるわけでもないのに太刀持ちが叫ぶように「怪しい影が」背景に映るよう。
後シテで隈を取ってからも、糸を撒きながらの所作に迫力と美しさがありさすが。

時蔵の頼光に気品と美しさがあり、優美さと切れ者の武将との両面がうかがわれて上々。
梅玉の保昌は意外にも初役だそうだが、幕開きの能掛かりのところが品がありぴったり。
菊之助の胡蝶も楚々とした風情。
間狂言の團蔵・松緑・翫雀の番卒に軽さがあって面白く、梅枝の巫女も行儀良い。
四天王には上方から一人愛之助が加わって、菊五郎劇団の面々に負けず、凛々しい様子を見せたのはうれしい。
10月の国立劇場以来お気に入りに加わった梅丸の太刀持音若が、今回も美少年ぶりで可愛く、また頼光に注進する台詞など凛々しくつとめて立派。

後シテで菊五郎が撒こうとした糸が一度上手く開かなかったり、糸を片づける後見との息が今ひとつだったのは初日ゆえだろう、まあご愛嬌の内。

三・助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)
仁左衛門の助六、玉三郎の揚巻、我當の意休、藤十郎の白酒売り実は曽我十郎、菊之助の白玉、東蔵の母満江、松緑の福山のかつぎ、左團次のかんぺら門兵衛、愛之助の朝顔仙平、翫雀の通人、團蔵の若衆

(少しネタばれあり)
成田屋がやるときは外題も「助六縁江戸桜」で、松嶋屋だとこうなるそうだ。外題だけでなく、成田屋では幕開きに口上や河東節が付くが他では付かないなど細々としたところに違いがあるらしいが、まあ本筋は同じ。

仁左衛門の助六を観るのは松竹座での襲名公演以来。あの時も揚巻は玉三郎で、仁左衛門の格好良さもさることながら、玉三郎が花魁道中で花道を歩いてきたときの文字通り息を呑むような美しさは今でも目に焼き付いているほど。
今回は残念ながら時間の関係か、その花魁道中がカット。定式幕が開くと浅葱幕が掛かっていて、これが落とされると既に揚巻、白玉ら花魁たちと意休が舞台に居並んでいる形での幕開き。ま、これはこれでいきなり華やかな舞台面とはなるのだが、やっぱり花魁道中は観たかった。

そういう幕開きなので、すぐに意休と揚巻の悪態の付き合いの始まりとなる。これもやっぱり、そこへ行くまでの意休のイライラがあってこそ、という気もして、序奏なしにいきなり本編が始まるようで味気ないのはなんともしようがない。

玉三郎の揚巻は、美しさはもちろん、気っ風の良さ、全盛の花魁の貫禄を見せつける。意休への悪態も小気味よく聞かせてさすがは当代随一の揚巻である。

そしてやっと出てきた仁左衛門の助六。色気あり、華あり、何より粋で文句なしに格好良い。もうただただ惚れ惚れと見とれるばかり。成田屋のいかにも江戸前という助六に比べると、同じように粋でも少し柔らかみがあるようで、それが兄に喧嘩のしかたを教えるところなどで、成田屋だといかにも乱暴者の風情だがこちらはちょっとおとなしげに見えたのも面白い。

我當の意休が、敵役の憎々しさだけでなく、終盤で助六を諫める懐の大きさを見せて立派。
菊之助の白玉も玉三郎に負けないくらい美しく艶やか。いつかこの人の揚巻を観られるだろうか。
藤十郎の白酒売りは和事の柔らかみがさすがで、おかしみも十分。ただちょっと柔らかすぎて、本当は武士の十郎にちょっと見えない気がする。
この頃意休が多かった左團次が門兵衛で、軽さもあって上手い。
愛之助の仙平はもうちょっとくだけた方がいい。真面目すぎ。
松緑のかつぎは威勢が良くてはまり役。

助六たちに喧嘩をうられるのが、普通田舎侍だが今回は若衆。といっても團蔵だから普通の若衆ではない、笠をとった顔に大笑い。
通人は翫雀で、白酒売りの顔を見て「まっ、そっくり!」と笑いを取っていた。
母満江は東蔵で貫禄ある風情。

よく考えると助六と揚巻の二人が揃って出るのは最後だけで、仁左・玉が並ぶとまさに眼福といったところ。年の瀬に悪態の邪気払いとともに、良いものを見せていただきました、という気分。

三・石橋
翫雀と愛之助の獅子の精

翫雀と愛之助の共演というのも、同じ上方勢とは言ってもありそうであまりない顔合わせのような気がする。
また、愛之助の獅子は先月も新橋で観たが、翫雀というのはちょっとニンでない気がして、観る前はどんな感じか予想が付かなかった。

花道からではなく、愛之助は花道のスッポンから、翫雀は舞台中央からせり上がりで登場する形。
二人だけでなく、力者の絡んだ振り付けになっていて、力者もとんぼはもちろんなかなかの活躍。
獅子といえば毛振りだが、これが意外と言っては失礼だが翫雀の方が綺麗に毛が回っていて上手かった。
翫雀って、体型でちょっと損してるけど、実力はある人なのよね。これからももっといろいろ役の幅を広げて欲しい。
初日だし、二人の息がぴったりと言うところまでは行かないが、二人とも勇壮で力の入った熱演で見応えがあった。

初日夜の部の終演時間は9時10分くらい。顔見世の初日にしては早い方かも。でも時間は短くても満腹満腹。

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コメント 2

とみた

mamiさん、こんにちは。
顔見世の初日をごらんになったんですか、贅沢ですねえ。
仁左衛門と玉三郎の助六は今回が最後だろうと思うので観たかったんですが、先立つものがなくて断念しました。
このブログを読んで行った気にさせていただきます。

菊五郎さんが前に土蜘なさった時に「花道の出があります」とイヤホンガイドが言ってしまったのですごく怒ってた、という話を勘太郎さんがしておられましたが、今回はそういうこともなく無事に、出られたのでしょうね。

最近よくあるジャニーズ四天王(大好きですが)に比べると、四天王も豪華ですね。

仁左衛門と藤十郎の兄弟というのも見てみたかったです。


by とみた (2009-12-03 12:32) 

mami

とみたさん、こんばんは。
確かに贅沢ですね。まあ、年に一度、一年頑張った自分へのご褒美ということで、思い切って行ってきました。
それにやはり仁左衛門と玉三郎の助六を観ておかないと後で後悔しそうな気がしたものですから。
やはり行った甲斐がありました。まさしく目の保養でした。

今回イヤホンガイドを聞かなかったので、どうかわかりませんが、あの智籌の出は知らないとほんとに舞台に来るまで気がつきませんね。それをイヤホンガイドで初心者の人に教えてあげるのが親切なのかどうか、確かに微妙です。

仁左衛門と藤十郎は同じ上方といっても持ち味が全然違いますね。助六の兄弟ではその違いが上手く出て面白かったです。「封印切り」の対決も面白かったですが、それはまたの記事でご報告します。
by mami (2009-12-03 23:52) 

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