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九月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

9月21日

シルヴァー・ウィークとやらで、世間は5連休とか騒いでいるが、私の仕事はあまり関係なくいつも通り2日だけのお休み。休日のせいか、幕見席に並ぶ人の列が長いように見えた。

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ぞろ目だったので撮ってみました。

一・竜馬がゆく 坂本龍馬最後の日
染五郎の竜馬、松緑の中岡慎太郎
一昨年のこの9月の公演で初演されてから連作となった「竜馬がゆく」もいよいよ完結。副題通り、竜馬が暗殺されるその日だけを描く。
染五郎はすっかり竜馬その人になったように自然な演技。力の抜け具合が良く、竜馬の同時代人にはほとんど理解されなかったであろう、こだわりやしがらみを持たない大きさを上手く出した。
松緑の慎太郎もよく付き合って、短気で一本気な男の風情が良い。
竜馬が滞在していた近江屋の下働きの男女(男女蔵と芝のぶが好演)を出すことで、武士が動かした「維新」と、それに巻き込まれながらも理解できない人々の層が浮かび上がったのは秀逸。薩長の武士にしたって、その後明治になって武士でいられなくなるなんて想像した者が何人いただろうか。大転換のお膳立てをして、見届けられなかった竜馬と慎太郎の死が切ない。でも幕切れはもう一工夫欲しい気も。

二・時今也桔梗旗揚 
饗応の場
本能寺馬盥の場
愛宕山連歌の場
吉右衛門の光秀、富十郎の春永、芝雀の桔梗、魁春の皐月、錦之助の蘭丸、幸四郎の但馬守
「饗応」から「馬盥」まで、じっと耐えに耐える光秀に観ている方まで辛くなってくる。光秀は春永に何を言われても何をされても逆らわない。そこがまた春永には癪に障るという悪循環。あるよね、現代でも、こういう人間関係って。ひたすら辛抱していた光秀の気持ちが切れるのが、妻の切り髪を見せられたからと言うのが泣かせる。自分の恥は忍べても妻の恥をさらけ出されるのは許せない。言葉には出さない深い愛情が察せられる。

吉右衛門は「饗応の場」では物静かな能吏の風情。春永や蘭丸に言い返すどころか表情一つ変えないところがかえって不気味。
「馬盥」でも、馬盥で酒を飲まされてもちょっと顔をしかめるくらいで、平然としている。これじゃ「腹の中で何を考えてるかわからない奴」と春永たちが思うのもしかたないよなあ。それが桐箱に入った切り髪を見て、「はて、これは?」と怪訝な顔つきから「あっ」と思い当たるところへの変化が、それほど大仰ではない中に丁寧に光秀の心理を見せていって上手い。そして皆が去って舞台に独り残ってから花道へかかるまで、桐箱をしまい、投げつけられた轡を拾い、と言う一連の動作の中で光秀の心が恥から怒りと憎悪へはっきり変わって行くところを無言の演技で見せた。ここでは客席も静まり返って、固唾を呑んで光秀を見守るようで、凄い吉右衛門の求心力。

「連歌の場」では上使を斬り捨ててから、一気にボルテージが上がって、三方を踏み砕いて、初めて自分を解き放ったかのように怒りを爆発させる。さすがに迫力いっぱいで溜め込んでいたエネルギーを発散させた様子。一緒にこらえてきた観客もカタルシスを味わう思い。

春永は富十郎で、いつもながら明瞭な台詞で、いかにも短気で癇性な様子で、しかし大きさもあってさすがに立派。
芝雀の桔梗が楚々とした様子と、兄思いの健気な雰囲気がぴったり。

四天王但馬の守で幸四郎が付き合うが、本来なら「これで舞台が大きくなった」と書きたいところだが、なんだかなあ、やることはやってるけどそれだけ、って感じ。自分にとっても祖父の初代吉右衛門縁だから出てきたんだぜ、みたいなやる気なさそうに見えて面白くも何ともない。これだったら何も幸四郎を出さなくとも、松緑あたりにやらせれば喜んでやりそうなものなのに、とつい思ってしまった。

三・お祭り
芝翫の芸者、歌昇・錦之助・染五郎・松緑・松江の鳶頭、芝雀・孝太郎の手古舞
「名残惜木挽の賑」と付くように、普通は山王祭が舞台だが歌舞伎座のある木挽町の祭という趣向で、さよなら公演を取り込んである。清元の人たちも着流し姿で頭に手拭いを乗せて、お祭に参加している形なのも楽しい。
踊りと言っても、難しいことは言わず江戸の祭の粋な雰囲気を見せてくれればいいような演目で、そういう意味では鳶頭の面々はなかなか良い顔ぶれだったが、手古舞の孝太郎と芝雀には芸者らしい伊達さやあだっぽさという点ではいささか物足りなく、福助か亀治郎あたりで見たいところ。(そういえば今月って、女方が少ないのね。)中堅若手の中に一人芝翫が入って、さすがに存在感を見せて締めていた。

四・河内山
幸四郎の河内山宗俊、梅玉の松江候、段四郎の高木小左衛門、錦吾の北村大膳、門之助の宮崎数馬、高麗蔵の浪路
時間の都合か、「質屋」はなくいきなり松江邸の場からの上演。
幸四郎の宗俊は、予想通りというか、この人らしいリアルな「強請屋」の造形で、ネチネチと嫌味たっぷり。「悪に強きは善にも」なんて言っちゃいるけどしょせん悪人なんだから、こういうのもありかな。でも玄関先での大見得や花道での捨て台詞などは、やっぱりもうちょっとカラッと豪快な感じが欲しい。悪人と言ってもやっぱり愛嬌の要る役なんだよなあ。だから幸四郎には黙阿弥ものは向いてないんだってば。

梅玉が我が儘で短気な困ったお殿様。それでもやっぱり殿様らしい品があるのがさすが。
段四郎と錦吾は役が反対の方が良かったのでは。錦吾では大膳には人が好すぎるように見えて玄関先で思わず大膳の方を応援しそうになってしまった(苦笑)。


二代目   聞き書き 中村吉右衛門

二代目 聞き書き 中村吉右衛門

  • 作者: 小玉 祥子
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2009/09/11
  • メディア: 単行本


新聞に連載していた時ずっと読んでいて、切り抜きして取ってあるので別に買わなくてもいいかな、とは思うもののやっぱり本で持っていたいかな。詳しい年表とか載ってるようだし。連載時は、若い頃まではとても詳しかったけど、時間切れか後半はかなり駆け足であっさり目だったのが残念でした。

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